大地の茶の間で味わう茶産地牧之原のテロワール【静岡県・牧之原市】

OCHATIMES編集部
大地の茶の間で味わう茶産地牧之原のテロワール【静岡県・牧之原市】

お茶の生産量日本一を誇る茶処静岡。その中部に位置する県内有数の茶産地牧之原には、広大な茶畑が広がっています。そうした光景や文化遺産を未来に残すため、静岡県中部地域の観光振興を目的とする駿河企画観光局が、2019年に企画したサービスとして、茶畑に囲まれたプライベートティーテラス「茶の間」を貸し出すことが始まりました。全方位に広がる茶畑を望む開放感あふれるテラスでは、寛ぎのひとときに生産者直送の香り豊かな日本茶が提供されます。「茶の間」には世界中から観光客が訪れており、お茶の新しい魅力を発信する場として数多くのメディアに取り上げられています。

現在(2023年5月)静岡には6つの「茶の間」があります。今回は、静岡県牧之原市にある「大地の茶の間」を取材しました。迎えてくれたのは大地の茶の間のオーナーであり、「釜炒り茶柴本」の園主でもある柴本俊史さん。この記事では、大地の茶の間の魅力や、「釜炒り茶柴本」のお茶で堪能できるテロワールについてなど、柴本俊史さんの全編インタビューでお伝えします。

大地の茶の間とは

大地の茶の間は、「釜炒り茶柴本」が管理する茶園に設置されたプライベートティーテラスです。このテラスは、富士山、南アルプス、駿河湾、伊豆半島に囲まれた場所に位置する小高い丘の上、地表から1メートルの高さに設置されています。

大地の茶の間からは、水平線まで見渡せる爽快な景色が一望できます。寛ぎのひとときには、生産者直送の香り豊かな日本茶が提供されます。


▲「大地の茶の間」はユーカリの木でできたテラスです。天気が良ければ駿河湾から富士山までの眺めが楽しめます

大地の茶の間の利用方法

「茶の間」のウェブサイトから「大地の茶の間」の予約を事前に済ませる必要があります。当日は、「釜炒り茶柴本」の茶園で受付手続きを済ませた後、オーナーである柴本さんの案内で大地の茶の間に向かいます。


▲茶の間に行く途中の緩やかな坂道。柴本さん曰く「ここを歩くと汗ばむようになったら、夏はもうすぐだな」と感じるそうです。

「大地」の名にふさわしい爽快なロケーションのティーテラス

大地の茶の間のオーナーであり「釜炒り茶柴本」の園主柴本俊史さんにお話を伺いました。


–ここが「大地の茶の間」ですか。とても爽快な場所ですね。ここから水平線まで見通せます。


「大地」と名付けられた場所に相応しい、水平線まで一望できるロケーションがあると良いなと思いました。天候が良ければ、ここから富士山や伊豆半島を望むことができます。夕暮れ時には、真っ赤な夕日が茶園に沈む様子が幻想的で素敵ですよ。

▲大地の茶の間から見る夕焼け色に染まった茶園。

お茶自体には触れたことのある人は多いかもしれませんが、茶畑に触れる機会は少ないと思います。そこで雄大な自然に囲まれてお茶を楽しめるプライベートティーテラス「茶の間」を作ることにしました。様々な方々にお茶に興味を持っていただけるように、ここからいろんな楽しみ方を用意していきたいですね。

「茶の間」の体験が終了する時間になったら、茶器一式はこちらに置きっぱなしにしていただいて結構です。行きの道はピクニック気分で楽しんで、帰り道は身軽になって気持ちよく帰ってきてください。

▲爽快なロケーションの茶の間ではお茶に興味がない人でも癒しのひとときが過ごせます。

香り豊かな釜炒り茶をお供に「大地の茶の間」で過ごす寛ぎのひととき

大地の茶の間で過ごす寛ぎのひとときのお供に、生産者直送の新鮮なお茶を提供しています。こちらが私のお茶「釜炒り茶」です。

一般に提供されているお茶の多くは蒸し製の緑茶で「煎茶」と呼ばれていますが、私のお茶は高温の釜で炒って作るので「釜炒り茶」と呼ばれています。主に九州宮崎で作られており、全国のお茶の生産量に占める割合は1%以下と非常に希少です。茶葉の外観が勾玉形状をしていることから、「ぐり茶」なんて呼ばれることもあるそうですよ。

(※静岡県内で釜炒り茶をカフェメニューとして提供している場所は珍しいです。大地の茶の間に加えて、菊川市に本店を構えるsan grams~green tea&garden cafe~(サングラム グリーンティー&ガーデンカフェ)でも、九州宮崎の五ヶ瀬緑製茶産の釜炒り茶がカフェメニューとして楽しめます。)

–凄く良い香りです。それにとても飲みやすい。体の中に優しく沁み込んでいくようです。「澄み渡る」という表現がピッタリのお茶だと思います。

その澄み渡る香味が私の目指す「大地のテロワールを味わえるお茶」の特徴です。


▲大地の茶の間体験の際にはポーランド製の茶器も貸し出しています。柴本さんのお茶はポーランドにも輸出しています。

–大地のテロワールというと、その地域の風土や環境が生み出す自然そのままの味わいという事ですか?

はい。大地を巡るミネラルや栄養素そのままの香味を味わえるお茶づくりをしています。ですから茶園には肥料も農薬も与えていません。

大地の茶の間▲肥料も与えないことで純粋に大地の味わいを吸収させたお茶を作る。それが大地のテロワールを味わえる「釜炒り茶柴本」のお茶。

大地の茶の間オーナー柴本が目指す大地のテロワールを生かしたお茶づくり

–柴本さんは畑に肥料も与えないのですね。しかし、それでは毎年の出来栄えが変わってしまうのではないですか?

たしかに、毎年同じような農作物を作りたければ、ある程度は生態系の調整が必要になると思います。肥料を与えるのは勿論のこと、剪定時期や収穫時期を見計らうなど様々な調整を加えることで、茶園の管理者が想定する香味を目指します。

私の場合はまず、茶樹を伸び伸びと自由に育てることを大切にしています。茶樹がどのように育っているかをしっかりと観察し、そのうえで適切な処置を施しています。簡単に言うと、私は茶樹に対して受け身の姿勢を取っているのです。

▲柴本さんが設えている最中の品種茶「印雑」の畑

–柴本さんが生態系の動き方に合わせて農法や製茶方法を変えていくというわけですか。

はい。私は多様な品種栽培や様々な製法を習得しています。その中から、毎年異なるバイオリズムで生育する茶樹に合ったスキルを選べばよいというわけです。そうして最終的に自分の思い描く香味に調整していきます。

–なるほど、一流のシェフなら素材の良さを生かした仕上げができるというわけですね。

何事にも通じることですが、大切なのは準備と段取りです。自分がどのようなお茶を作りたいのか決まったのなら、茶園の設計から既にお茶作りは始まっています。

私が茶園を設計する場合、周囲の草木の様子、風の通り道、日光の当たり方、土中環境などを読み取り、茶の樹にとって最適な生育の場となるように計算します。その上で農薬も肥料も使用しません。

そうすることで茶樹が草木とともに生きる生態系に順応していくのです。それが私の目指す「草、虫と仲良く地域自然と共に持続可能なお茶作り」のかたちです。理想を言えば、火力も電気やガスではなく薪で準備して、全てこの地域にある資源で完結するお茶作りを目指したいですね。

(※人間をはじめとした生態系の範囲内で農業を回していくことで、環境負荷の小さい持続的な農業システムは循環型農業と呼ばれています。循環型農業については樽脇園の記事でも書いています。)


▲「草、虫と仲よく、地域自然と共に持続可能なお茶つくり。」をモットーに、ヤギたちに茶畑まわりの雑草を食べてもらい、その堆肥を使ってお茶を栽培しています。

しかし、この農法は大量生産には向きませんし、販売価格も高値にならざるを得ません。ラグジュアリーなお茶の需要が県内にあるかと言えば難しいでしょう。

ですから、丹精込めて美味しいお茶を作るだけでなく、お茶をお客さんに届けることも必要になります。私自身、お茶作りと同様に、様々な形でお茶を表現し広めていくことにも力を入れています。

創意工夫を凝らした表現で丹精込めて作ったお茶を届けていきたい

美味しいお茶を作るというのは勿論大切なことですが、お茶を通じて植物が飲み物に変化していく過程を体験することにも価値があると思います。


そこで「大地の茶の間」では釜炒り茶作り体験もご用意しています。お客さんには事前にお茶摘み用の籠をお渡しして、茶の間でのひとときを楽しむ傍ら、茶の間を取り囲む茶園でお茶摘みをしていただきます。指定の時刻になったら小屋で私と一緒に釜炒り茶作りをします。

▲小屋にある机の上で釜炒り体験を行っています。▼5人以上の人数になると下のように大きな倉庫内で体験の場を設けます。

他にも、焙煎によって原料がどのように変化していくのか、その過程を五感で体感できるようなコンテンツを考案中です。日本人に限らず、外国人にも気に入ってもらえるような魅力的なお茶の体験の場を沢山用意したいですね。

–柴本さんは本当に多様なお茶の体験の形を考えているのですね。

最近では、趣向を凝らしたイベントも積極的に開催していて、活動も段々とアーティスティックなものが多くなっています。実際にやってみると、とても楽しくて。私自身お茶屋というよりも、様々な表現で日本茶を広めていくアーティスト活動の方が性に合っているんじゃないかな(笑)


▲時期によって大地の茶の間では柴本の紅茶を使用した紅茶クッキーも提供しています。ヤギのマークが可愛い。

偉大な自然の力が創り出した時系列のアート。茶畑が自然に戻りゆく姿

(大地の茶の間から戻る途中、柴本さんは足を止め茶畑の一角を指し示しました。先にある景色を眺めながら、世界にお茶を広めていくことに関して自身の考えやこの先のビジョンについて、お話を伺いました。)

この眺めは私のお気に入りです。人の手で畝の形に整えられた茶畑が少しずつ自然へと還っていく様子を時系列に沿って見ることができます。左上は剪定されて綺麗な状態の茶畑で、そのすぐ下は放棄されて2年目となる茶畑です。右側には10年ほど経過して森に戻っていく状態が見られます。

▲この景観は大地の茶の間に向かう道の途中で見ることができます。

–確かに珍しい光景です。茶の間に向かう時には気づきませんでした。

長い年月をかけて人の営みと自然の生命力が偶然創り上げた光景です。意図して作れるようなものではありません。あれはもうアート作品の領域だと思います。もっとも見る人によっては、ただの放棄茶園でしかないのかもしれませんが。

–昔は、あのあたり一面全てが茶畑だったのですね。

周辺の茶農家はどんどん廃業しています。そうした流れを止めるためにもお茶の魅力を伝える活動は必要です。お茶を身近に感じられるような窓口を整えていかないといけません。技術や製造方法を理論的に面白く説明できる人も欲しいですね。

–技術や製造方法は企業秘密ではないのですか?

技術や製造方法を教えることを好まない人は一定数いるかもしれません。しかし、お茶に興味を持ち、もっと知りたい、自分でお茶を作ってみたい、という人は確実に増えています。

私はそういった要望に応えられる茶師でありアーティストでありたい。なによりもお茶を広めてくれる同志や仲間が増えてくなら、それが一番嬉しいかな(笑)。

関連記事:釜炒り茶柴本が誘う香り豊かな熟成茶の世界【静岡県・釜炒り茶】

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大地の茶の間の情報

住所 〒421-0414 静岡県牧之原市勝俣2695
ホームページ https://changetea.jp/chanoma/daichi-chanoma/
電話番号 080-5295-7196
電子マネー・カード決済 一部対応
営業時間 10:00~17:00
(時期によって変更の可能性があります)
定休日 不定休
駐車場 あり(少数台)
アクセス 東名相良牧之原ICから車で約20分、受付場所の柴本さん宅から茶の間までは徒歩10分

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~23年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

 

英訳担当 Calfo Joshua
経歴 イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。

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