樽脇園が目指すお茶の新しい価値を創る天空のオーガニックティーファクトリー【静岡県・川根茶】

OCHATIMES編集部
樽脇園が目指すお茶の新しい価値を創る天空のオーガニックティーファクトリー【静岡県・川根茶】

南アルプスの間ノ岳を源とし、静岡県の中央を南北に貫く大井川の中流域には、川根本町と島田市川根町エリアで生産されるお茶があります。このお茶は「川根茶」と呼ばれ、澄んだ水色や芳醇な香りが特徴です。今回取材したのは、川根本町の中でも標高630メートルの高地でお茶の有機栽培に取り組む「樽脇園」です。樽脇園は、お茶の国内生産量のわずか数パーセントにも満たない希少な川根茶を、約30年にわたって有機栽培で作り続けています。さらに自園自製自販だけでなく、茶摘み体験や茶会の開催イベントなど、お茶を広める活動にも積極的に取り組んでいます。

この記事では、標高630メートルの高地で育つ有機栽培茶の魅力や、樽脇園のお茶の届け方、そして樽脇園の自然と共存する農業について、園主の樽脇靖明さんのインタビューを交えてお伝えします。

樽脇園とは

樽脇園は、静岡県川根本町下長尾で有機栽培から製茶、販売までを一貫して手掛ける茶農家です。現在、代表を務めるのは樽脇靖明さんです。樽脇園の茶園は標高630メートルの山間地にあり、その場所は別名「天空の郷」とも呼ばれています。

樽脇園
▲東京スカイツリーとほぼ同じ高さに位置する樽脇園の茶園。ここでは美しい自然環境の中で茶葉が育まれています。

樽脇園のお茶の紹介

樽脇園は、かつて旨味重視のお茶作りに傾倒し、化学肥料漬けになってしまった茶栽培に対する反省から、有機栽培に転向しました。本来の自然な茶栽培に立ち返るため、農薬と化学肥料の使用を止め、自家製有機肥料を用いて土づくりから再度取り組むことにしました。

それからおよそ30年以上の歳月が経ち、現在では樽脇園の有機栽培の川根茶が産地直送で消費者のもとに届けられるようになりました。

地元川根本町の高冷地で栽培される茶葉は、葉肉が薄いため、短時間の蒸しで仕上げられる浅蒸し茶となります。針のように細く美しい形状の茶葉が特徴であり、透き通った水色と上品な口当たりが楽しめます。特に低温で淹れることで、より一層の香味を堪能することができます。

ここでは、樽脇園の川根茶を少しだけご紹介します。


馥~かおり~

「馥(かおり)」は、樽脇園が自信を持っておすすめする煎茶の一つです。新茶の時期に収穫された茶葉を使用しており、華やかな香りが特徴的です。お茶好きの方はもちろん、お茶初心者の方にもおすすめです。

どのお茶を選べばよいか迷っている方は、まずこの『馥~かおり~』から始めてみてはいかがでしょうか。

紅茶

樽脇園の紅茶は、一年間冷蔵庫で寝かせており、味の角が取れたまろやかな味わいに仕上げられています。渋みが少なく、柔らかな口当たりは和菓子や懐石料理にもよく合います。

ほうじ茶

芳ばしい香りのほうじ茶です。ほうじ茶の魅力の一つに、カフェイン含有量が少ないことが挙げられます。通常、一番茶が最もカフェインが多く、続く二番茶、三番茶とカフェインの含有量が低くなります。

樽脇園のほうじ茶は、秋に収穫される三番茶を使用しており、カフェイン含有量が少ないため、妊婦や子供でも安心して飲むことができます。

5種類のシングルオリジン(品種茶5種)

お茶は農作物であり、シングルオリジン(特定の産地や品種の茶葉を使用して一つのお茶に仕上げられたもの)は、毎年同じ味になることはありません。

樽脇園では、年々変化するお茶の味わいを楽しんでいただくために、5種類のシングルオリジンを提供しています。2023年現在、提供されている品種茶は以下の5種類です:やぶきた、やまのいぶき、つゆひかり、ふじみどり、おくみどり。

これらの品種茶は、全て樽脇園が栽培した茶葉を使用しており、それぞれ特徴的な味わいと香りが楽しめます。

新月茶・満月茶

新月茶と満月茶は、月の満ち欠けに合わせて収穫されるお茶であり、それぞれ味と香りに特徴があります。月の満ち欠けは、地球の水と密接に関連した潮汐力(潮の満ち引き現象)としても知られており、作物の成長にも影響を与えるとされています。

新月茶は、新月前の7日間に収穫された茶葉を使用しています。比較的軽やかで爽やかな味わいが特徴であり、飲みやすいお茶です。

一方、満月茶は、満月前の7日間に収穫されたお茶を使用しています。芳醇な香りや深い味わいを持っており、高級茶として扱われています。

お茶だけじゃない!樽脇園のエッセンシャルオイルブランド「KAGYA JAPAN ( カグヤ ジャパン ) 」

静岡県川根本町では、良質なお茶作りに適した気候を利用して、柚子栽培も盛んです。樽脇園では、柚子の有機栽培にも取り組んでおり、収穫した柚子を原料にエッセンシャルオイルを開発しました。

独自のエッセンシャルオイルブランド『KAGYA JAPAN』を立ち上げ、現在は三種類のエッセンシャルオイルを展開しています。
・柚子特有の瑞々しい香り「YUZU」
・森林浴を思わせる爽やかな香り「HINOKI」
・重厚感のある樹木の香り「SUGI」

▲樽脇園が新たに立ち上げたエッセンシャルオイルブランドKAGYAJAPAN。左より「HINOKI」「YUZU」「SUGI」。どれも水蒸気蒸留法と呼ばれる特殊な技術で抽出されています。

梱包材として使用されるお洒落な木箱は、そのままディフューザーとしても利用できます。資材には環境に配慮したヒノキが使用されており、自然に優しい商品作りに取り組む樽脇園の姿勢が感じられます。


▲有機柚子と有機紅茶を使用したブレンドティー『ORGANIC KAGYA BLEND』も販売しています。

インタビュー: 樽脇園が目指すお茶の新しい価値を創る天空のオーガニックティーファクトリー

代表である樽脇靖明さんにお話を伺いました。(樽脇園は、急傾斜の山間地に位置しており、写真からも分かるように、現地を歩いた際には足腰に相当な負荷がかかりました。このような場所での茶栽培がいかに困難であるかは言うまでもないでしょう。)


東京スカイツリーとほぼ同じ高さに位置する豊かな自然と調和した有機茶園

–ここが標高630メートルの茶園ですね。美しい自然に囲まれた気持ちいい場所です。

ほぼ東京スカイツリーと同じ高さでお茶作りをしています(笑)。自然豊かなこの地をとても気に入っています。

–ここまで来る道中は本当に大変でした。樽脇さんは、ずっとこの場所に住んでいるのですか?

現在は静岡市内に住んでおり川根まで通勤しています。私は、生まれてから高校卒業まで、この川根の地に住んでいました。高校卒業後は、県外の大学に進学し、自動車整備士資格を取得し静岡市内の自動車ディーラーに就職しました。

母の他界を期に、お茶の生産に携わるようになりました。3年前に父が病に倒れ、現在はほぼ一人で農作業をしています。


▲樽脇園は東京浅草にある東京スカイツリーと同じ高さにあります。

15年ほど前から各地に足を運び、お茶の対面販売も行っています。この場所にずっと留まっていると、アイデアの幅も限られてしまいますから、積極的にお客様と交流することを大切にしています。

▲KADODE OOIGAWAに出店している樽脇園の様子

川根の地に戻って来てあらためてこの場所を見るたびに、その魅力と貴さを感じています。10年以上経っても木の高さ以外にはほとんど変化がありません。こんな自然環境は滅多にないですよ。

しかし、高齢化による人口減少が進んでおり、このままでは住民がいなくなるかもしれません。それに伴って、人工林の放置が生態系や自然環境に悪影響を及ぼす可能性もあります。


▲環境を彩る生物模様の美しさに思わず見とれてしまいます。

この貴重な場所が放置され荒れ果ててしまうのは避けたい。なんとしても守っていきたいと思っています。保全された美しい山々は水をきれいに保ち、そして海も守ることに繋がっているのですから。有機栽培茶の生産や循環型農業への取り組みはそうした自然保護にも繋がると考えています。

(※循環型農業とは、一般家庭や畜産業、工業などから出た本来ならば廃棄する物を肥料として活用し、資源を循環させる農業システムのこと。人間をはじめとした生態系の範囲内で農業を回していくことで、環境負荷の小さい持続的な農業システムとして機能することを期待されている。循環型農業について、もっと知りたい方は「大地の茶の間」の記事も参照してみて下さい。)

–樽脇さんがこの地でお茶作りをされていることが自然保護にも繋がるのですね。

山間地での希少な有機栽培茶に適切な評価を

–有機栽培茶はお茶の国内生産量の中でわずか2%ほど(2022)しかない、と聞いています。こうした山間地での有機栽培となると大変なのではないですか?

お茶の輸出市場の拡大に伴い、有機栽培に対する需要が増えていることは確かです。鹿児島をはじめとする多くの茶産地でも、「有機農産物認証」を取得する茶農家は年々増えています。

樽脇園でもお茶の輸出を行っていますが、主に個人間での取引になります。立地的に大量生産・大量販売には向きませんので、扱う量の多い企業間との取引にはどうしても対応しきれないことがあります。

山間のお茶を作る上で頭を悩ませていることがあります。それは標高が高い山間地では平地に比べて収穫時期が遅いということです。一方、市場では収穫時期が早いものであるほど「初物」や「旬のもの」として高値で取引される傾向があるということもあります。

こうした「ある種早いもの勝ちというような価値観」が古くから根付いてしまっていることは、山間地の農家にとって大変不利な条件になっているのです。

こうしたことからも私は「茶業界内における良いお茶の基準」とは別に、「お客様満足度に向き合う良いお茶の基準」も考えなければならないと思います。つまり、お客様の立場で考えて「こんな商品があって欲しい」という思いを汲み取り、真摯に応えていくことです。

「人がお茶を飲む理由」を考えることから始まる商品開発

–「茶業界にとっての良いお茶の基準」とは別に「消費者の満足度に向き合うという意味での良いお茶の基準」を大切にしたいということですね。

そもそも、お客様がお茶を飲む理由とは何かと考えると、「一息つきたい」「リラックスしたい」「健康のため」という答えが多いのです。美味しいお茶作りにこだわることも大切ですが、茶業として継続していくためには、様々な商品開発に挑戦することも必要だと思います。

そうした経緯から、樽脇園ではお茶だけでなく、有機栽培の柚子からエッセンシャルオイルを開発・販売しています。忙しい現代社会の中で、こうしたニーズも確かに存在しており、東京などで開催されるアロマ系フードのイベントに出店依頼を受けることもあります。

エッセンシャルオイルのブラックカラーボトルも、いずれはUVカット仕様の透明なクリアボトルに変更することを考えています。商品の中身が重要であることは言うまでもありませんが、より魅力的な外観にすることで、多くの方々に興味を持ってもらえると考えています。

–パッケージの見映えにこだわることが大切なのですか?

パッケージデザインは、商品のアピールを補完する重要な要素であり、同時に商品自体の魅力や価値を高めることができると考えています。実際、消費者は商品を購入する際、まずそのパッケージを見て、商品のイメージや価値を判断することが多いのです。

樽脇園では、パッケージデザインもプロのデザイナーに依頼しており、ECサイトの写真もプロのカメラマンに撮影してもらっています。ただし、パッケージの見た目だけにこだわることはありません。見た目だけでなく、商品の本質的な価値を伝えることが大切です。

▲消費者がまず目にする商品パッケージは、樽脇園の顔となっています。

ファンとの交流を通して樽脇園のお茶の魅力と価値を広めていく

樽脇園は、立地的に大量生産や大量販売には向いていません。その代わりに、お客様に喜んでいただける希少なお茶作りや、樽脇園を支援していただけるファンを大切にすることに力を注いでいます。

樽脇園では不定期にお茶摘み体験イベントを開催しています。お茶に関心を持つ多くの方々に支持され、コロナウイルス前の「オーガニック川根茶フェス2019」では総勢80名ほどが集まりました。


–ここに80人も来たのですか?

はい。オーガニック川根茶フェスでは、お茶摘み体験の他にオーガニックビュッフェやマルシェも同時開催しており、参加した皆さんにとても喜んでいただきました。お茶摘み体験に参加していただいた多くの方々とは、今でもお付き合いが続いています。

–美味しいお茶作りと同様にその魅力や価値をアピールすることも大切されているのですね。

お茶の「初物」の土俵には上がれないかもしれませんが「旬な物」として樽脇園のお茶を広めていけたら最高です。


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樽脇園の情報

住所 〒428-0314静岡県榛原郡川根本町下長尾1766
事前予約なしの訪問は厳禁です!
ホームページ https://taruwaki-en.jimdo.com/
電話番号 090-2130-8532
SNS 樽脇園のinstagram
電子マネー・カード決済 カード決済有
営業時間 問い合わせ確認
定休日 不定休
駐車場 あり
アクセス ・新東名「島田金谷IC」を降りて、川根方面へおよそ20km北上。大井川線「下泉駅」から大井川を渡った後にある、ガソリンスタンドのあるY字路を左折し、国道362号線を天竜方面へ15kmほど進む。

・新東名「森浜松IC」を降りて、国道362号線を川根本町方面へ1時間ほど進む。

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴  「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~23年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

 

英訳担当 Calfo Joshua
経歴 イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。

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