相藤園が世界に証明した川根茶の価値と茶産地への想い【静岡県・川根茶】

OCHA TIMES
相藤園が世界に証明した川根茶の価値と茶産地への想い【静岡県・川根茶】

日本茶を生産する茶農家がその品質の出来栄えを競う茶品評会。その中で、最高の栄誉のひとつとされるのが全国茶品評会の農林水産大臣賞になります。令和4年、静岡県川根本町元藤川の川根茶農家相藤園が全国荒茶品評会で農林水産大臣賞を受賞しました。
相藤園は第13回国際名茶品評会では大賞も受賞。世界的にそのお茶の価値が認められることとなりました。今回は相藤園の園主である相藤令治さんが直接呈茶してくださる川根茶園喫茶「炬籐里(ことり)」で取材させていただきました。

この記事では、相藤園の川根茶作りや、川根茶農家が置かれている厳しい現状について相藤園4代目園主の相藤令治さんのインタビューも交えてお伝えします。

相藤園とは

相藤園とは、静岡県川根本町元藤川でお茶作りを営む川根茶農家です。現在園主を務めているのは4代目となる相藤令治さん。

相藤園

令和4年、お茶の品質の出来栄えを競う全国茶品評会で相藤園は最高の栄誉とされる農林水産大臣賞を受賞。また第13回国際名茶品評会で大賞を受賞するなど、その卓越したお茶作りの技術と熱意が世界的に認められることとなりました。


▲これまでにも各種品評会でも過去に数十回もの受賞歴があります。

叔父の相藤良雄は唯一人の手揉みの永世名人

数十年前、まだ製茶機械がない時代には、茶師と呼ばれる職業の人々が手でお茶を揉んで仕上げていました。相藤令治さんの叔父にあたる相藤良雄さんは手揉みの技術を競う大会で7年連続優勝し、ついには手揉みの永世名人に認定されました。

後にも先にも手揉みの永世名人となったのは相藤良雄さん唯一人です。(※手揉みに関しては山平園の記事を参照してください)

相藤園のお茶の紹介

相藤園のある静岡県川根本町元藤川は南アルプスを源とする大井川上流域に位置します。1年を通して寒暖の差が激しいこの土地で作られるお茶は川根茶とよばれており、滋味(じみ)と呼ばれる爽やかな香味が堪能できる銘茶。全国的に生産量の少ない高級茶として有名です。

川根茶

そんな希少な川根茶の中でも、相藤園の川根茶がとりわけ高く評価されていたことが伺えるのは茶品評会の受賞からだけではありません。その類まれな品質の高さ故、数十年前のまだ東京都への交通網さえなかった時代に、相藤園は東京日本橋のお茶屋と取引をするという極めて珍しい川根茶農家でもあります。

ここではそんな相藤園の川根茶を少しだけご紹介します。

▲相藤令治さんより4代前の曾祖父が、東京のお茶屋さんと取引をしたお茶の仕切り書。明治の終わりから大正の初期のお茶の値段が読み取れます。

煎茶~月の光~

相藤園が伝統あるこだわりの技法で作り上げた浅蒸し煎茶。1煎目は低めの温度で淹れて爽やかな滋味や甘味、トロリとした繊細な口当たりを楽しめます。2煎目3煎目と温度を上げて抽出することで徐々にスッキリとした渋味が出てきつつ爽やかな後味に変わっていきます。


国産川根紅茶

優しい味わいと華やかな香りが特徴的な相藤園特製の和紅茶。ストレートティーで天然の甘味を楽しむのがオススメです。
フォーレなかかわね茶銘館ではカフェメニューとして提供されています。


インタビュー:世界に認められた相藤園のお茶作りと川根茶ブランドの現状

相藤園園主の相藤令治さんにお話を伺いました。(右側が奥さんの佐枝子さん。左側が息子の裕次さん)


茶の葉に効率よく養分をいきわたらせる化粧ならし

–相藤園のお茶作りについて教えてください。

良いお茶を栽培する為に考えなければならないのは、いかにしてお茶の葉の中に養分を取り込むことができるかです。そこで「化粧ならし」と呼ばれる作業が重要になります。「化粧ならし」とは、茶畑の表面から突き出た古い葉や枝を切り取る作業をいいます。

こうした余計な部分を取り除くことによって、茶の葉に養分が効率よく行き渡っていくのです。大切なのはこの化粧ならしを行う時期です。時期が早すぎても遅すぎてもいけません。

長年、茶農家として積み重ねたノウハウをもとに、茶の生育状態や気候など環境条件を見ながら判断します。

近年は大井川水域の変化や気候変動など環境要因が大きく変わったこともあり、40年以上茶農家をやってきた私をもってしても判断が難しい。異常なくらい時期が早く訪れたこともあれば、遅いこともあります。

美味しいお茶作りの秘訣となる肥料づくり

相藤園で使用している肥料は、「ぼかし肥料」といいます。これは、米ぬか魚や動物質、菜種粕といったといった有機肥料に土や籾殻など微生物を加えて発酵させたものです。

昔は魚屋さんに分けていただいた魚のアラを発酵させて作ったアミノ酸肥料を使用していたこともあります。当時は今のような運送方法や冷蔵庫もない時代でしたから、1軒1軒魚屋さんを回らなければなりませんでした。

45リッターもの大量の魚のアラを扱っていたら強烈な匂いが体に染みついてしまって。匂いを洗い落とさないまでは家に入れてもらえませんでしたね(笑)

現在では、このぼかし肥料が、ここの茶樹を最も丈夫に育成し、美味しいお茶にしてくれるのではないか、と考えています。地球環境にも優しいですし、相藤園の美味しいお茶作りの秘訣の1つでもあります。

他にも、美味しいお茶を作れるようになる方法があるのなら、どんなことでもいいから知りたい、と農林省の金子武さんのもとには何度も通いました。

あらゆる試行錯誤を続けながら、お茶作りを続けること40年以上。現在のお茶作りに至りました。


その年の茶の出来栄えを感じ取る試し揉み

茶の収穫期が近づいてきたら、茶園から少量の茶葉を摘み採り試し揉みをします。試し揉みを通して、その年に育った茶葉の出来栄えを感じ取るのです。収穫期が始まる前にこの試し揉みの作業をしている茶農家は、川根でも相藤園のほかにはほとんどないと思いますよ。

ちなみに試し揉みした茶葉はフォーレなかかわね茶茗舘に持って行き、お茶のイベントなどで使用しています。

▲ステンレスを電熱で曲げて作った相藤令治さん手作りの試し揉み用台。

本格的な収穫期に入ったら工場で茶葉の加工に取り掛かります。午前中に茶園から刈ってきた茶葉を工場で加工するのですが、一度に多くの量を収穫し過ぎてしまうと工場での加工が追い付かなくなってしまいます。加工が次の日に持ち越されてしまったらせっかくの収穫直後の最高鮮度を活かしたお茶に仕上がりません。

一日に加工できる量だけ収穫して、全てその日のうちに加工します。こうした手間をかけるからこそ山間地ならでは香りと味が楽しめる相藤園の川根茶ができるのです。

–川根茶農家はお茶の品評会での受賞に必ずと言っていいほど名を連ねていますね。皆さん交流はあるのですか?

ありますよ。お茶作りに適し良い環境に恵まれているというのもあるのでしょうね。この地域には品評会に必ずと言っていいほど名を連ねる素晴らしい川根茶農家がお互いを尊敬し切磋琢磨し合っています。

相藤園の近くには松島園という川根茶農家があります。松島園の園主川崎さんが作る川根茶も実に素晴らしい。また親戚の相藤農園も近くにあります。園主の方の父親が私の従弟にあたります。相藤農園も素晴らしい川根茶を作りますよ。

急速に衰退化する銘茶川根茶のブランド

こうした品評会で受賞するほどの質をもつ川根茶ですが、現在その知名度が急速に落ちているのです。きっかけとなったのは、おそらく産地表示改訂の問題ではないかと思います。

ひと昔前、川根茶と言えば日本茶の中でも高品質なお茶だと認知されていました。パッケージに川根茶と表示されているだけで、お茶の売り上げが伸びたほどの時代があったのです。

そんな中で、ごく僅かばかりの川根茶を合組(生産された時期や場所、蒸し具合などが異なる荒茶を組み合わせてバランスの取れた香味のお茶を作り出す茶問屋の伝統技術)しただけで川根茶と表示し販売するといった手法が出てくるようになってしまい、そうしたやり方が世間から非難を浴びるようになりました。

銘茶と謳われるお茶の産地の知名度を利用した販売を許してはいけない。茶産地のブランディングを守る必要がある、と産地表示の改訂が提案されたのです。

そうして設けられた新ルールは「お茶の産地名をパッケージに表示する場合には、その産地の茶葉が51%以上入っていなければならない」というものでした。

しかし川根茶は品質は良いものの生産量の極めて少ない希少なお茶です。国内生産量の内訳で見ても川根茶が占める比率は数%もありません。ルール改訂後、ほとんどのお茶が川根茶の名前を表示できなくなり、市場からその名は消えました。結果、川根茶は知名度の低いコアなブランドになってしまったのです。

川根茶のブランディングを守る為に行ったはずの改訂が逆効果となり、もとより600ヘクタールしかなかった川根茶の栽培面積も現在では半分以下。今となっては川根茶を知っている人の数も最盛期の25%ほどにまで減りました。

昔は良いお茶を作っていれば、良い収入が得られて次の年に繋ぐことができました。しかし現在では、もう茶市場に出すには茶価が安すぎて対価として見合わなさ過ぎます。では、我々茶農家はどうやって稼げばよいというのか。

その答えとして自ら値段を付けて売るしかない、小売りや喫茶を始めよう、ということになりました。もう自分の身を守る為にはそうするしかないところまで来てしまったのです。ただ正直いうと、私はもっとお茶の栽培と製造に専念していたかった。

相藤園茶園喫茶「炬籐里(ことり)」から届けるお茶の寄りそう日常

本物の川根茶を楽しんでいただきたい。そして川根という地域の魅力も知っていただき川根と川根茶のファンを増やしていきたい。そうしたコンセプトのもとに相藤園では川根茶園喫茶「炬籐里(ことり)」を立ち上げました。


令和4年の夏頃にティーテラスも設置しました。大井川沿いの雄大な自然や鉄道を眺めながらお茶を楽しめると好評をいただいています(笑)


炬籐里(ことり)は体験型の喫茶です。茶葉と茶器一式はこちらで用意しますので、ご自身でお茶を淹れて本場の川根茶の香りと味を楽しんでみてください。初めて相藤園の川根茶を飲んだ方は「今まで飲んできたお茶の味ではない」と驚かれます。

–美味しい。まるで舌の上で微かに泡立つような甘味と旨味。これが川根茶特有の滋味(じみ)と言われる味なのですね。

一般的にお茶は1煎目に美味しさが最も出ます。川根茶を2煎目、3煎目と淹れていくにつれて、ようやく普段皆さんが飲んだことのあるお茶の味に近づいてくると思います。

こちらは、すすり茶といいます。品評会入賞茶を水に浸してじっくりと抽出するお茶です。一般ではまず出ることのない、贅沢なお茶ですよ(笑)

–この香りと味は凄いですね。美味しい。

私達は自信もってオススメしていますが、味覚は人それぞれ違います。百聞は一見にしかず。どうぞご自身で川根茶の香りと味を確かめてみていただきたいですね。きっと今の若い方々にとっては、川根茶の一煎目の味となると、想像もつかない味だと思いますよ(笑)

相藤園の情報・購入方法

住所 〒428-0311 静岡県榛原郡川根本町元藤川160
ホームページ

購入方法

ツアー情報

https://aitouen.com/

https://kawanetea.com/

(相藤園のお茶はHPからも購入できます)

https://lns-nihon.jp/

(写真を提供していただいた二本柳さんの経営するツアー会社)

電話番号 0547-57-2693
電子マネー・カード決済 ホームページはカード決済可。店頭では現金のみ。
営業時間 問い合わせ
定休日 サイトより確認、もしくは問い合わせ
駐車場 あり(1,2台)
アクセス 所要時間: 国一バイパス向谷ICより車で約60分
最寄り駅: 大井川鐵道・駿河徳山駅より車で約5分

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴 静岡茶の情報を世界に届ける。を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。これまでに静岡県副県知事との面会。お茶タイムズが世界お茶祭りでリンク紹介。2021静岡県山間100銘茶審査員を務める。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

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