赤い急須が目印!太田茶店が紡ぐおもてなしの心。和食文化で味わう特別なお茶時間【静岡県・周智郡森町】

OCHATIMES編集部
赤い急須が目印!太田茶店が紡ぐおもてなしの心。和食文化で味わう特別なお茶時間【静岡県・周智郡森町】

静岡県西部に位置する周智郡森町。緑豊かな自然に囲まれ、寺院や仏閣が点在するその風景は、まるで京都を思わせることから「小京都」とも呼ばれ、観光地として賑わいを見せています。遠州森町ICを降り、谷崎交差点から明神通りに沿って車で進むこと10分。年間数百万人が訪れる観光名所「小國神社」へ向かう道中、右手にひときわ目を引く大きな赤い急須のモニュメントが見えてきます。そこが今回ご紹介する「赤い急須の太田茶店」です。太田茶店は、心のこもったおもてなしで地域に根付き、遠州森町のお茶屋として高い集客力を誇っています。地元の人々だけでなく、多くの観光客が訪れるその理由は、店舗を訪れた人々が「また来たい」と感じる温かさと、丁寧に淹れられた日本茶の味わいにあります。

この記事では、太田茶店が大切にしている「おもてなし」の精神と、その背景にある思い、さらに目指す理想のお茶屋像について、代表取締役の太田貴久さんへのインタビューを交えながらご紹介していきます。

太田茶店とは

静岡県周智郡森町にある「太田茶店」は、1977年に創業した製茶問屋です。代表取締役社長は太田貴久さんが務めています。

太田茶店は3つのセクションに分かれています。

まず、お店正面から入ってまっすぐ進んだ先には、店内に並ぶすべてのお茶を試飲できる「飲んで選べるお茶の専門店」があります。訪れた人々は好みに合ったお茶を試しながら選べるのが魅力です。

店舗裏に位置する「和楽庭」の工房で手作りされた和菓子が並ぶ「和菓子~旬菓の杜~」。季節ごとの旬の素材を使った和菓子は、地元の人々にも愛されています。

おむすびセットが人気の「食事処~森の息吹~」では、地元の食材を活かした食事を楽しめます。お茶と共にゆったりとしたひとときを過ごせる憩いの場です。

これら3つのセクションを通じて、太田茶店はお茶の魅力を発信し、地元とのつながりを大切にしています。

また、駐車場に設置された大きな赤い急須のオブジェは、訪れる人々にとって人気の撮影スポットです。多くの来客が、この赤い急須を背景に写真を撮り、SNSに投稿しています。

太田茶店
▲週末には地元農家による新鮮な野菜や果物の販売も行われ、地域の交流の場としても賑わいを見せています。

お茶屋~飲んで選べるお茶の専門店~

「お茶屋 ~飲んで選べるお茶の専門店~」では、地元森町の「森の茶」を中心に、浅蒸し茶や深蒸し茶、さらには珍しい品種のお茶まで、幅広いラインアップを取り揃えています。ここでは、店員にお願いすることで、最高級のお茶まで含めたさまざまな種類の試飲が可能です。自分の好みに合った一杯を見つける楽しさを味わえます。


太田茶店で取り扱うお茶は、「株式会社一宮」から供給されています。株式会社一宮は、生産茶農家の共同工場である「一宮茶農業協同組合」を基盤に、太田茶店の会長が新たに設立した組織です。

この体制により、太田茶店は生産から小売りまで一貫した販売ルートを確立。安定した品質の高いお茶を、安心して提供できるようになりました。

太田茶店のお茶の品質の高さは、これまでの数々の受賞歴が物語っています。お茶専門店ならではの極上の味わいをぜひ体験しながら、お気に入りの一杯を見つけてみてはいかがでしょうか。

旬菓の社~森の小さなお菓子屋~

「旬菓の社」は、お茶にぴったりな手作り和菓子を提供するお菓子屋です。職人の熱意が込められた本格的な和菓子の数々から、お気に入りのお菓子を選び、好きなお茶と自由に組み合わせて楽しむことができます。



メニュー内容は定期的にリニューアルされているため、訪れるたびに新しい発見があります。併設されたお茶屋の喫茶メニューも充実しています。年間を通して人気なのが「お茶屋のあんみつ」です。

夏季限定で提供されるかき氷も評判です。太田茶店のかき氷に使われるシロップは、すべて手作り。既製品は一切使用せず、餡子も小豆から丁寧に炊き上げています。

10年以上続く夏限定のかき氷は、毎年あっという間に完売するほどの人気です。

森の息吹~おむすびランチが人気の食事処~

「森の息吹」は、太田茶店のお茶と日本食を一緒に楽しめるランチコーナーです。現代の飲み物の多様化により、若い世代の中には「お茶」に馴染みのない子供たちも増えてきました。

そんな中、「ご飯とお茶が相性抜群であることを知ってもらいたい」という願いから、「森の息吹」は誕生しました。主なメニューには、お値打ち価格のおにぎりランチがあり、季節限定のとろろ定食も用意されています。ランチのラストオーダーは13:30です。


ふわふわなとろろがたっぷりとかかった丼は、食べ応え抜群。新鮮で高品質な素材を使用することで実現した、贅沢な一品です。

店内にはセルフサービスのドリンクコーナーが設けられ、特上煎茶を含む数種類のお茶が自由に楽しめます。

注文を受けるたびに、店員がひとつひとつ丁寧に握るおむすびは、口に入れた瞬間、米粒がほろりとほどけていきます。その優しい食感に思わず顔がほころぶ、心温まる一品です。

地元の人々が集まり、お茶を片手に交流する憩いの場としても親しまれています。

冬季には店内の扉を閉め、暖かい空間でゆっくりと食事を楽しめます。一方、夏季にはオープンスペースとなり、川岸から心地よい風が吹き抜け、爽やかなひとときを提供しています。

インタビュー:地元を愛し、地域と共に歩む。お茶と笑顔がつなぐ心の交流の場へ

太田茶店代表取締役の太田貴久さんにお話を伺いました。


なぜ人々はここに足を運ぶのか?太田茶店が選ばれ続ける理由

–太田茶店について教えてください。

太田茶店が大切にしているのは、お茶屋としての原点に立ち返り、「どうすればもっと良くなるのか」「どうすればお客様に満足していただけるのか」を常に考え、努力し続けることです。

単にお茶を購入するだけであれば、量販店で手軽に手に入れることができます。しかし、わざわざお茶専門店まで足を運んでいただくには、それに足る理由や特別な価値を提供しなければなりません。

現在、お茶の消費量は一昔前と比べて減少傾向にあります。業界全体が厳しい状況にある中、多くのお茶屋さんが懸命な努力を続けているのではないでしょうか。しかし、だからといって「お茶はもう売れないのか」と言えば、決してそうではありません。

お茶には今もなお、多くの人々に愛される価値があるのです。

「お茶を知らない子どもたちへ」森の息吹が伝える和の食文化

–では、太田茶店としては、お茶を売るために何か特別な方法を考えているのでしょうか?

そうですね。今の子どもたちは、お茶を出されていないのではなく、そもそも「お茶を飲んだことがない」というのが実情です。

そんな子どもたちが「森の息吹」でおむすびを食べながらお茶を飲むことで、「ご飯のお供にお茶を楽しんでもいいんだ」と気付き、お茶を楽しむようになります。

お茶を楽しんでいる子どもたちの姿を見て、親御さんも「うちの子のためにお茶を買ってあげよう」と思うようになります。お茶は病気の予防など、健康飲料としても優れているので、こうして自然にお茶の習慣が育っていけば良いと考えています。

太田茶店

–「森の息吹」は、美味しいランチコーナーであると同時に、お茶の魅力を伝える広告塔でもあるのですね。

はい、その通りです。「森の息吹」では、昔ながらの和食文化を大切にしています。おにぎり、みそ汁、たくわん、そしてお茶――私はこれが日本人の食文化の極みだと思っています。この和食文化を通じて、お茶をもっと広めていきたい。

そして、太田茶店のファンを一人でも多く増やしていきたいのです。

また、訪れたお客様が心地よく過ごしていただけるよう、私たちは「おもてなし」の心を大切にしています。


太田茶店が守り続ける灯りと笑顔。人を惹きつける「明るさ」の理由

–なるほど。太田茶店のおもてなしは、私も確かに心温まる雰囲気を感じました。お手本にしている店舗などはあるのでしょうか?

私たちがこのお店を開業する際、まず県外へ足を運び、多くの店舗をリサーチしました。その中で、ある田舎町に非常に繁盛しているカフェを見つけたのです。ぜひ話を聞いてみたいと思い、閉店後にオーナーご夫婦にお話を伺いました。

そのカフェを経営していたのは、おじいさんとおばあさんのお二人でした。お二人はこうおっしゃいました。

「美味しいだけでお客様が来るのではありません。人の笑顔にも惹かれて足を運んでくださるのです。そうして来られたお客様がまた笑顔になって帰っていく。それが商売のすべてなのではないでしょうか?」と。

深い言葉だと感じました。これはお茶に限らず、どんなビジネスにも通じる真理ではないでしょうか。お茶を提供する際も、笑顔で出すか、渋い顔で出すかで、同じお茶でも味わいが違って感じられるものです。

それ以来、私たちはこの考え方を心掛けています。

「太田茶店は営業中、決して電気を消さない。薄暗い店舗ではお客様は訪れませんから、閉店するまで明るく照らし続ける。そしてスタッフは常に笑顔で接客する。」

これが私たちのおもてなしの原点です。

海外市場よりも大切なもの—地元愛を貫く太田茶店の信念

–昨今の茶業界では、「日本ではお茶が売れない」と見切りをつけ、海外輸出へシフトする動きも増えています。太田茶店としては、そのような考えはないのでしょうか?

輸出やインバウンド市場を狙うことは、決して誤ったアプローチではないと思います。実際、太田茶店も一部では輸出を行っています。ただし、それはあくまでビジネスの一環に過ぎません。

私たちの主な方針は、インバウンド市場向けのグローバルなお茶屋を目指すことではなく、日本人が訪れたくなるお茶屋をつくりあげることです。

–海外市場というよりも、日本国内のお客様を大切にされているのですね。

もちろん、インバウンドのお客様も歓迎しています。この地域には1300年以上の歴史を持つ観光名所「小國神社」があります。小國神社を訪れた多くの外国人観光客も、太田茶店に立ち寄ってくださいます。

––太田茶店にも外国人観光客が訪れるのですね。彼らの反応はいかがですか?

外国のお客様は、お茶が提供されると驚かれることが多いですね。特に、甘味と一緒に出されるお茶については「甘味には紅茶を合わせるものではないのか」と質問されることもあります。しかし、実際にお茶と甘味を一緒に召し上がっていただくと、「お茶と甘味が絶妙に合う」と喜んでいただけるんです

–日本ならではの味わいを楽しんでいただけるのは嬉しいですね。


しかし、私たちの根底には「まずは地元のお客様を大切にしたい」という想いがあります。インバウンドのお客様を呼び込むために、地元のお客様が不利益を被るようなことは望ましくありません。まずは地元のお客様を大切にしたいのです。

地元のお客様が訪れてくだされば、その口コミで周辺地域の方々も足を運んでくださります。さらに県外、国内、そしてインバウンドのお客様へと広がっていく流れを築いていけたらと考えています。

お茶と子供の笑顔が共存する憩いの場所。まるで小さなディズニーランドのような太田茶店

–一般にお茶屋は少し入りづらいというイメージがありますが、太田茶店はそのような雰囲気を感じさせませんね。何故でしょうか?

子供たちが訪れるからだと思います。子供が来ると、それだけで場が和んで、自然と人が集まりやすい雰囲気が生まれるんです。

私自身も子供たちが「お菓子ください」とおねだりしてくれるのが嬉しくて、ついついお菓子を渡してしまうんですよ(笑)。実は社員から「社長は子供にお菓子をあげすぎです」と叱られることもありますが…

▲太田茶店の傍らにある川岸には皇帝ダリアなど綺麗な花が咲いています。

太田茶店の裏手には広々とした広場があり、子どもたちが自由に遊べるスペースが広がっています。親御さんは、お茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごし、子どもたちは思いきり体を動かして遊んでいます。家族で気軽に訪れ、くつろげる場所として親しまれています。

–それは子育て世代の方々にとっても、嬉しいサービスですね。

これまでもお客様の声を受けて、お店を少しずつ増築してきました。でも実は、私たちがやりたいことをやっているだけという面も大きいんです

–このまま進めば、お茶屋というよりも、まるでお茶のテーマパークのようになりそうですね。

そうかもしれませんね(笑)。私たちが目指しているのは、まるで『家族向けの小さなディズニーランド』のようなお茶屋なんです。


おすすめ記事 : おさだ苑が切り拓く世界へ繋ぐ「森のお茶」の道【静岡県・周智郡森町】

おすすめ記事 : いしだ茶屋の森のお茶ソフトクリームから続くお茶の新しい届け方【静岡県・周智郡森町】

おすすめ記事 : お茶と人をむすぶ。静岡・御前崎発の日本茶カフェまるよ茶屋の仕掛け【静岡県・御前崎市】

おすすめ記事 : GOOD TIMING TEA(グッドタイミングティー)が提案する日本茶愛と心地良さが溢れる空間【静岡県・静岡市】

太田茶店の情報

住所 〒437-0226静岡県周智郡森町一宮3822
ホームページ http://www.otachaten.com/
電話番号 0538-84-2020
電子マネー・カード決済 対応済み
営業時間 9:00~16:00
定休日 火曜日
駐車場 あり(50台)
アクセス 遠州森町ICより車で15分

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~24年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズは世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介されています。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

 

英訳担当 Calfo Joshua
経歴 イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。

関連記事