富士山まる茂茶園の未来に託す楽しいお茶のかたち【静岡県・富士御茶】

OCHATIMES編集部
富士山まる茂茶園の未来に託す楽しいお茶のかたち【静岡県・富士御茶】

静岡県東部の富士山麓、岳南地域で戦時中より五代にわたりお茶作りに励み続けている茶師の家系「本多」。初代・本多茂兵衛から続くお茶作りの系譜と名前を受け継いだ五代目・本多茂兵衛が生み出すお茶は「富士御茶(ふじおんちゃ)」と呼ばれており、国内外で高い評価を得ています。今回は、そんな本多の茶を取り扱う「富士山まる茂茶園」を取材させていただきました。

この記事では、富士山まる茂茶園のお茶の魅力、そして日本茶という文化についてなど、静岡県100銘茶協議会の会長も務める五代目本多茂兵衛さんのインタビューを交えてお送りします。

富士山まる茂茶園とは

「富士山まる茂茶園」は、戦時中の昭和2年より富士山南麓、岳南の地で五代に渡ってお茶作りに励み続ける茶師・本多茂兵衛のお茶を取り扱う会社です。

本多茂兵衛は初代が茶栽培、二代目が茶製造、三代目と四代目による技術革新にて品質の更なる向上を遂げ、それらを受け継いだ五代目本多茂兵衛さんが平成27年「富士山まる茂茶園」を設立し、代表取締役を務めています。


五代目本多茂兵衛さんは自園・自製・自販の本多の茶に「体験」を加えることで、現代のライフスタイルに寄り添ったお茶の文化の在り方を追求しており、茶事変プロジェクトの主要メンバーとしても活躍しています。

富士山まる茂茶園のお茶の紹介

富士山まる茂茶園のお茶は、富士山麓に長く根付いた茶樹から生まれる豊潤な香味から「富士御茶(ふじおんちゃ)」と呼ばれており、国内外で高い評価を得ています。ここでは、その幾つかをご紹介します。

煎茶

その年の最初の新芽を茶師の技術をもって優しく丁寧に揉み上げた煎茶。甘味とすっきりとした後味が心地よく何煎でも飲めてしまいます。渋味、甘味、滋味の調和のとれた富士御茶のスタンダードな味わいが楽しめます。


ほうじ茶(高焙煎茶 丸火~まるび~)

丁寧に選別した茎のみを三日間じっくりと独自の製法で焙煎することで、まるでスモークされたような香りと甘みを引き出したほうじ茶。冷めても美味しく、煮出しても美味しく、またミルクとブレンドしてほうじ茶ラテにしても楽しめます。

(静岡市にあるNO’AGE concentré(ノンエイジコンセントレ)では、ほうじ茶丸火を使用したカクテルも提供しています。)


熟成紅茶

春先に製造した紅茶を次の夏まで熟成させ、丸みのある優しい味わいに仕上げた熟成紅茶。茶葉にお湯を注いだ瞬間に立ち昇る芳しい香りには思わず頬が緩んでしまいます。キンキンに冷やしても美味しく飲める紅茶です。


星と桜の玄米茶

抹茶を熱湯で溶かして作るパウダータイプの玄米茶。添え付けのサクサク食感の「玉星あられ」の上に、かわいい「桜あられ」を浮かべた様相は、その名の通り星と桜に彩られた夜空の様。見る人の心をほっこりさせてくれます。


インタビュー:五代目本多茂兵衛が未来に託す楽しいお茶のかたち

富士山まる茂茶園代表取締役の五代目本多茂兵衛さんにお話を伺いました。


富士山まる茂茶園のお茶作り

–富士山まる茂茶園のお茶作りについて教えてください。

私はお茶の栽培とは、一つ一つが「意味のある作業の積み重ね」だと思っています。しかし、お茶の栽培を含め農業では多様な生命活動が目に見えない部分で行われているので「何故こうなるのか」が分かりくい。

私はこれまでにさまざまな手法を試し、得た結果を比較検証することで「何故こうなるのか」を解明する作業を繰り返しました。

全国各地にある沢山の畑も見て回りました。畑という領域は一見どれも似たようなものに見えるかもしれませんが、実はそれぞれに少しずつコンセプトが違うのです。その違いは何なのか、何のためにあるのかを、ひたすら調べて回りました。

–一般的に農業のノウハウというのは、そのようにして積み重ねるものなのですか?

あくまでもこれは私のやり方であり、他の方はどうか知りません。私がこうした手法をとったのは、数十年先を行く先達の茶師に5年や10年で追いつきたかったからでもあります。

この手法で辿り着くことのできる事実は真理ではないかもしれません。ただ私は「お茶の栽培とはどのような事実に基づいて行われているのか、自分の言葉で説明できる茶師」でありたかった。

こうしてノウハウを積み重ねておけば、仮に10年間お茶畑から離れてしまっていても、またお茶作りを再開するときにスムーズに戻れるでしょう?

また、誰かがお茶作りを始めたいとした時に、ある程度原理が分かっている人が教えれば、一から始める必要はありません。そうすればきっと新規参入も容易になると思うのです。

私達の作っているお茶というものは、まじないや魔法や奇跡といった偶然の賜物ではなく必然の成果として毎年作られているのだと思います。だから来年も再来年も100年後もそれを欲している人々を幸せにできる。そこがお茶作りの良いところでもあると思います(笑)

お茶の楽しみ方とその醍醐味とは

一つの指標として、その年のお茶の楽しみ方を一筆同封することはありますが、基本的に私は作り手の押しつけをあまりしたくありません。各々が感じたままに、お好みでお茶を楽しんでいただければと思います。

ただ、敢えて言うのであれば、皆カップ一杯のお茶を淹れることに神経を集中する割に、その茶がどうやってできているのか、どうやって栽培されているのか、その土は気候はと興味が広がっていかないのはもどかしく、もったいない気持ちになることはあります。

JR東静岡駅の直ぐ目の前、グランシップ広場の隅に「ほうりょく」や「こやにし」という茶の樹があります。グランシップは3年に一度開かれる世界お茶まつりのイベント会場にも使用されているのですが、イベントには万人単位で来ているのに、誰もそこに植えてある茶の樹や種に興味を持たずに素通りしている光景は、私にとってとても印象的でした。

もっとも、そんなことを気にしてお茶を見ているのは、同業者でも数名に限られてしまうのかもしれません。私なんか茶樹の間に転がっていた茶の種を持ち帰り、自宅で栽培して増やしちゃいましたから。茶園に立つ身としては「お茶の樹や土から一杯の茶に至るまでの過程」が一番の醍醐味なのです(笑)

海外で日本茶は人気があるのか

–ニュースなどで、海外で日本茶は人気が高いといわれていますが、実際、海外で日本茶は人気なのでしょうか?

私が感じる限りですが海外の富裕層と呼ばれる方々に関して言えば、国の東西問わず教養深く、文化を学ぶことへの意欲が高いように感じます。

「茶の事が分かった。茶の木の成り立ちが分かった。学ぶ機会をくれてありがとう」と。富士山まる茂茶園を訪れた際の体験で日本茶の深い部分を知れると非常に感謝されます。

そうした彼らのニーズに応えることで静岡茶は単なる飲み物ではなく、日本の食文化の一翼を担うものだと捉えていただけるでしょう。これは今後の静岡茶、並びに日本茶の立ち位置を決める上で重要なことだと考えます。

–日本の富裕層には、お茶は人気があるのですか?

現在のこの国に富裕層と呼ばれる方が果たしてどのくらいいるのでしょうか?戦後この国は、日本にいた富裕層から資産を取り上げ人々に分け与えたことで、大きく経済成長しました。しかし、それと引き換えに文化を支えてきたハイエンドな富裕層が姿を消してしまったのです。

かつての日本が目指した一億総中流社会とは、誰もが豊かになったと実感できる国になった一方で、伝統文化の衰退をもたらしてきた一面もあるのかもしれませんね。そして今や中流社会そのものが地盤沈下しています。この先、日本全体が貧困化するのは避けられないでしょう。

富士の茶の間

–では、これからの日本茶ビジネスは海外や外国人観光客をターゲットにすればよいということでしょうか?

ところがそう簡単にもいかないのです。富士市には大淵笹場という外国人観光客がたくさん訪れる場所があるのですが、彼らにはどこが立ち入り禁止の場所かの判断がつかない。

ただ畑を踏み荒らすだけで、現地でお金も使う事なく帰ってしまうので経済も潤いません。時期によっては外国人観光客が直接茶農家を訪れても、かえって迷惑になってしまうかもしれません。

こうした問題の解決の為には、現地が外国人観光客をスムーズに受け入れる態勢を整える必要があります。生産者ならではの特別な体験プログラムを用意する他に、部外者の立ち入り禁止区域について周知徹底するなど、ゾーニングが急務です。

▲コロナの影響下でも本多さんはオンライン茶会を開くなど、世界中の人々との交流を絶やさないようにしている。

名もなき茶樹に託した未来のお茶と幸せのかたち

(お茶の生産現場としての茶畑とは別にもう一つ、本多さんは個人で茶栽培をしている小さな畑を持っています。案内していただいたもう一つの畑で現在の日本茶産業について何を考えているのか、お話を伺いました。)

ここは私のもう一つの畑です。山の中に自生している面白そうなお茶を持ってきて、挿し穂による自家増殖で増やしています。

–面白そうな試みですね。ここでは何という品種が栽培されているのですか?

ここのお茶に名前はありません。これから年月をかけて育てて、どういったお茶が作れるのか調べていきます。面白いお茶ができたら名前を付けて品種として独り立ちさせてみてもいいな、と思っています。

富士山の山中に未来の日本茶を支える品種が埋もれているのかもしれないと思うと今から楽しみです(笑)

–それだと検証結果を出すのに最低でも10年近くはかかると思いますよ。そんなに長い先を見越してやっているのですか?

いいんです。どうせ私は死ぬまでお茶を作るのですから(笑)それにお茶の樹は人間よりも遥かに長寿で軽く100年以上は生きます。現状では、この畑はまだ趣味みたいな規模なのかもしれませんが、これが100年先の未来にはどうなっているでしょうね。

私がいなくなった後も、この茶の樹は生き続ける。いつの日か私の人生とこの茶の樹を原料に、未来の茶師が素晴らしいお茶を生み出してくれるのなら、それが未来を生きる人々にとっての幸せでしょう。

私はよく年配の方々にこう言います。

私は私の孫の世代の為に頑張る。だからあなたたちは、貴方の孫のその更に孫の為に頑張ってほしい、と。未来の日本を生きる子孫達が、興味と好奇心を楽しめるような世界を残しましょう、と。

お茶も楽しく幸せなかたちで未来に繋げていきたい。そのためにも、これからの富士山まる茂茶園では、たくさんの新しい試みを予定していますよ。今、近くの古民家を借りてお茶体験を希望する方々を迎える茶房「ふじおか茶房」を設えているところです。

「ふじおか茶房」の和室でお茶会を開いたり、土間でお茶作りを行いたいですね。

茶園と茶房で体験が完結すれば、工場でお茶の機械が稼働している時期でも、お客様を受け入れられる体制ができます。将来的には喫茶をしてみても楽しいかもしれませんね(笑)

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~富士山まる茂茶園の情報・購入方法・茶園体験の申し込み~

住所 〒417-0841 静岡県富士市富士岡1765
ホームページ http://corp.fuji-tea.jp/
instagram https://www.instagram.com/honda_mohei/
電話番号 0545-30-8825
電子マネー・カード決済 クレジットカード対応済み

QRコード決済非対応

営業時間 問い合わせ
定休日 問い合わせ
駐車場 あり(少数台)
アクセス 最寄り駅、新富士駅より車15分

吉原駅より車15分

 

国道1号線富士東インターを降りて北上、県道76号線を北上し、

県道22号線との交差点を直進、坂道手前を右折、赤淵川を渡ってすぐを左折して200m

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~23年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

 

英訳担当 Calfo Joshua
経歴 イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。

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