合組茶、点てる抹茶、緑茶割り。「しずチカ茶店 一茶」で出会うお茶の最前線【静岡県・静岡市】

OCHATIMES編集部
合組茶、点てる抹茶、緑茶割り。「しずチカ茶店 一茶」で出会うお茶の最前線【静岡県・静岡市】

茶処・静岡県の中でも、静岡市は最も古いお茶の歴史を持ち、お茶と共に発展してきた都市です。そんな静岡市の静岡駅北口地下広場に店を構える「しずチカ茶店 一茶」には、市内にある約50軒のお茶屋が丹精込めて仕上げたお茶が一堂に集まっています。店内に並ぶお茶はすべて、税込500円という特別価格で提供。また、お茶に精通したスタッフが一杯ずつ丁寧に淹れるカフェメニューでは、本格的な静岡茶の味わいを気軽に楽しめるとあって、多くの来店者に支持されています。県内外から訪れる人々も多く、「しずチカ茶店 一茶」はまさに静岡市のお茶屋の“窓口”といえる存在です。

この記事では、しずチカ茶店 一茶の提供スタイルや人気のカフェメニューについて、「しずチカ茶店 一茶」の統括責任者であり、かつて日本茶インストラクター協会理事や世界緑茶協会評議員を務めた大塚喜美江さんへのインタビューを通じて、その魅力をお届けします。

しずチカ茶店一茶とは

しずチカ茶店一茶は、静岡駅北口の地下広場に位置する日本茶カフェです。静岡茶商工業協同組合が運営しており、加盟している約50社のお茶屋が丹精込めて仕上げたお茶を、特別価格の500円(税込)で提供しています。

魅力は価格だけではありません。静岡市内の多彩なお茶屋から選りすぐりの茶葉が一堂に会するこの場所は、通常ではなかなか実現しない特別な空間です。


暑い夏には水出し茶やティーバッグ、秋には蔵出し熟成茶、4月・5月にはその年の新茶が並びます。春には桜をモチーフにしたパッケージが登場するなど、季節ごとの演出も魅力のひとつです。単にお茶を販売するだけでなく、静岡茶のブランド価値を伝える工夫が随所に感じられます。

茶町KINZABURO山梨商店、など静岡市内に店舗を構えるお茶屋のお茶が販売されています。

しずチカ茶店一茶のカフェメニュー

静岡市内にある約50社のお茶屋が提供する茶葉が一堂に集結し、販売される。その試み自体が非常に珍しいものですが、「しずチカ茶店 一茶」では、これらのお茶をカフェメニューとして楽しむこともできます。このようなスタイルを持つお茶カフェは、全国的にもほとんど例がありません。

今回は、しずチカ茶店 一茶で提供されているカフェメニューの一部をご紹介します。

一茶セット

しずチカ茶店 一茶に揃う約50種類のお茶の中から、お好きな3種類を選び、お茶菓子または上生菓子とともに味わえる呈茶セットです。

最初の1煎目は、専門スタッフが丁寧にお茶を淹れてくれます。2煎目以降は、急須を使って自分のペースで楽しむことができます。この提供スタイルにより、時間をかけてじっくりとお茶の魅力を味わうことができます。


▲用意されたお茶菓子の中から、お茶に合わせて自由に選べるのも嬉しいポイントです。

しずチカ茶店一茶のスタッフは、それぞれ異なる茶葉に応じた最適な淹れ方を習得しており、取り扱う茶葉ごとに淹れ方も調整しています。こうした丁寧な姿勢からは、「しずチカ茶店 一茶」が静岡市内のお茶屋を代表する「窓口」でありたいという強い思いが伝わってきます。


飲んでみて気に入ったお茶があれば、併設の物販コーナーでお土産として購入することも可能です。一茶セットは毎週水曜日の定休日を挟み、木曜日に新しいラインアップに切り替わり、次の火曜日まで提供されています。

 シャカシャカ抹茶セット

茶道の経験がない方にとって、抹茶を自分で点てる機会は少ないかもしれません。そんな方でも気軽に楽しめるようにと考案されたのが、「シャカシャカ抹茶セット」です。

注文時には、抹茶を点てるための道具とお茶菓子を選ぶことができ、その後はスタッフが丁寧にサポートしてくれます。こうした工夫により、抹茶をの魅力を誰でも気軽に体験できます。

初めて自分で点てた静岡本山抹茶の一杯は、きっと記憶に残る味わいになることでしょう。

また、茶筅は席の数だけ用意されているため、満席のときでも安心して注文できます。また、茶筅は席の数だけ用意されているため、満席時でも安心して注文できます。こうした細やかな配慮が、本格的でありながら気軽に楽しめる、特別なお茶体験のひとときを支えています。


テイクアウトドリンク

しずチカ茶店 一茶では、テイクアウト用のドリンクメニューも充実しています。急須で丁寧に淹れた玉露や煎茶のほか、静岡市内で生産された和紅茶や微発酵烏龍茶も取り揃えています。

さらに、すっきりとした甘みとやさしい抹茶の香りが特徴のウス茶糖や、静岡産のお茶を地酒で割った「緑茶割り」など、個性豊かなメニューが勢揃い。多彩なバリエーションを通じて、静岡のお茶の奥深い魅力をさまざまなスタイルで楽しむことができます。


インタビュー:静岡茶の底力。品質と情熱が詰まったしずチカ茶店 一茶の挑戦

しずチカ茶店一茶の統括責任者であり、これまでに日本茶インストラクター協会理事や世界緑茶協会評議員を務めた経歴を持つ大塚喜美江さんにお話を伺いました。


高品質な静岡茶が500円で手に入る!しずチカ茶店一茶の取り組み

しずチカ茶店一茶は、静岡茶商協同工業組合が運営するお茶専門店です。静岡市内の約50社が丹精込めて作ったお茶を、すべて一律500円の特別価格で販売しています。

–これだけ多くのお茶屋の製品を一堂に集めて販売するとは、本当に素晴らしい取り組みですね。しかも価格が一律500円とは驚きです。

この豊富な品揃えと特別価格が実現できたのは、静岡茶商協同工業組合の皆さんの静岡茶への情熱とご支援があってこそです。


▲しずチカ茶店一茶では、世界緑茶コンテストで最高金賞を受賞した銘柄を含む、高品質なお茶をすべて一律500円で販売しています。

静岡はお茶だけでなく、素晴らしいものがたくさんある地域です。隣接する展示スペースとの連携や、駅地下でのプロモーション活動なども通じて、今後も静岡茶と静岡市の魅力を積極的に発信していく予定です。

–静岡茶のPRに、そこまで力を入れる理由は何でしょうか?

今から約15年前、私は静岡大学で開催されたシンポジウムに参加しました。その際、学生の皆さんに「食事の際には何を飲むことが多いですか?」と質問したところ、95%の回答が「お水」だったのです。

よく考えてみると、ファミリーレストランやラーメン店など、学生にとって身近な飲食店では基本的にお水が提供されます。丼ものの店や回転寿司ではお茶が出ることもありますが、若い世代向けの店舗ではお茶よりもお水が一般的です。

かつてのように「食事といえばお茶」という習慣が薄れてきている今こそ、お茶文化の再定着には、積極的な発信が必要だと感じています。

▲新茶シーズンには、期間限定でカフェスペースも設けられ、多くの来店者でにぎわいます。

伝統と理論で淹れる静岡茶。合組茶に込められた茶匠の想い

お茶といえば、一般的には深蒸し茶が注目されがちですが、実は茶匠たちが伝統的な技術を駆使して作る「合組茶」も、素晴らしい逸品です。(合組とは、異なる産地のお茶を独自の配合比率で組み合わせ、奥行きのある香りと味わいに仕上げる茶匠の伝統技術です)

茶匠の中には、自らのお茶について上手に語ることが苦手な方もいるかもしれません。しかし、知名度は高くなくとも、実際には優れた職人が多く存在しています。こうした背景から、私たちにはまだまだ成し遂げるべきことがあると感じています。

私が2021年4月に「しずチカ茶店 一茶」の統括責任者に就任して以来、お茶の淹れ方や茶器の選び方、メニュー構成、店内レイアウトに至るまで、あらゆる面で指導を行ってきました。


▲しずチカ茶店 一茶オリジナルの茶器。「一茶」という落款(らっかん)が捺されています。

–お茶の淹れ方の指導も、大塚さんが行っているのですか?

はい。扱うお茶が変われば、当然ながら淹れ方も変わります。そのため、月に一度、しずチカ茶店 一茶の全スタッフを対象に、お茶の淹れ方に関する研修を実施しています。

私は、日本茶インストラクター、台湾烏龍茶鑑定士、日本紅茶協会認定の紅茶インストラクター、中国茶芸師、中国評茶員などの資格を保有しています。それぞれのお茶に対して、湯の温度が風味や香りにどのような影響を及ぼすのか、といった基本的な知識を踏まえ、理論的に指導を行っています。

大切な組合員加盟店の皆様が、丹精込めて作り上げたお茶です。だからこそ、最高の状態でお客様に提供したいのです。


聖一国師、多田元吉、そして茶町の今に至るまで。都市の在り方を変えた静岡茶

お茶の存在が文献に明確に記されている最古の記録は、紀元前59年のものです。つまり、それ以前からすでにお茶は存在していたと考えられます。長い歴史の中で多くの文化や風習が移り変わる中、お茶だけは形を変えながらも現代まで受け継がれてきました。この事実には、改めて驚かされます。

静岡本山茶は、鎌倉時代に聖一国師が中国から茶の種を持ち帰ったことに始まる、静岡茶の源流とも言える存在です。さらに、現在もっとも広く親しまれている茶品種「やぶきた」も、静岡市が発祥の地とされています。

国産紅茶の歴史においても、静岡市の丸子地区は重要な発祥地の一つです。国産紅茶の普及に尽力した多田元吉公は、日本人として初めてインドのアッサムやダージリンを訪れ、お茶に関する貴重な知識と技術を持ち帰りました。

また、多田元吉公は、茶品種「やぶきた」の生みの親として知られる杉山彦三郎公の指導者でもあり、その功績は現在でも茶業界に深く刻まれています。


▲壁に飾られた歴代の理事長の写真。3代目は茶屋すずわ取締役・渥美さんの祖父、14代目はお父様にあたります。

静岡茶の魅力は歴史だけでなく、都市の発展にも深く関わっています。現在では清水港から海外へお茶を直接輸出できるようになりましたが、当初は横浜港がその役割を担っていました。静岡から横浜までお茶を運ぶ必要があり、その輸送ニーズに応える形で静岡鉄道が整備されるようになったのです。

後に海野孝三郎氏の尽力によって、清水港からの直接輸出が実現しました。これにより、静岡はお茶の輸出量で日本一の地位を確立しました。現在でも茶町周辺には、多くの外国商社が軒を連ねており、その歴史の名残を感じさせます。

–静岡市は、まさに「お茶とともに発展してきた都市」と言えますね。


お茶は変わる。でも、そばに在りつづける。お茶と生きる、これからも

約5年前、私は30年以上勤めた製茶問屋での役員職を退任し、独立という道を選びました。現在は、茶業界で培ってきたノウハウを活かしながら、お茶に関するセミナー講師やマネジメント、コンサルティング業務に携わっています。

朝日テレビカルチャーでは、もう25年以上にわたって専属講師を務めています。最近では、若い世代の方々がセミナーに参加し、急須でお茶を淹れる様子を撮影してSNSに投稿する場面を目にすることも増えてきました。

そうした光景を見ていると、私たちにとっては日常的な行為である「急須でお茶を淹れること」が、若い人たちにとっては新鮮で、スタイリッシュな取り組みとして映っているのではないかと感じます。

もしかすると、今後は茶業に関わる経営母体が、お茶とどう関わり、どのような業態として未来に残っていくかが、大きく変化していく可能性もあるでしょう。

それでも、お茶そのものは、姿や形を変えながらも、これから先もずっと私たちのそばに在りつづける。

私はそう信じています。

しずチカ茶店一茶

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しずチカ茶店一茶の情報

住所 〒420-0851 静岡市葵区黒金町49-1 JR静岡駅北口地下広場(しずチカ内)
ホームページ https://www.ocha.or.jp/issa/
電話番号 054-253-0030
電子マネー・カード決済 現金のみ
営業時間 10:00~19:00(LO18:30)
定休日 水曜日(祝日の場合は翌営業日)、年末年始
駐車場 なし
アクセス 静岡駅より徒歩1分

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~24年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズは世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介されています。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

 

英訳担当 Calfo Joshua
経歴 イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。

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