静岡茶の販路拡大に挑む。高柳製茶の戦略と現場【静岡県・牧之原市】

OCHATIMES編集部
静岡茶の販路拡大に挑む。高柳製茶の戦略と現場【静岡県・牧之原市】

JR金谷駅から車で約25分、日本有数の茶産地・牧之原に広がるのは、標高約180mの平地に連なる一面の茶畑です。温暖な気候と豊富な日照時間に恵まれたこの地では、葉肉の厚い茶葉が育ちます。これを長時間じっくり蒸し上げることで、コクと旨味が引き出された「深蒸し茶」が生まれます。今回取材したのは、静岡県牧之原市に本社を構える製茶会社・高柳製茶。地元産の高品質な茶葉を用いたお茶の製造・販売にとどまらず、お茶を使ったお菓子やスイーツの開発にも積極的に取り組んでいます。

この記事では、高柳製茶が手がけるお茶やスイーツの魅力に迫るとともに、お茶の普及と市場拡大にかける思いについて、代表・高柳敬将さんへのインタビューを交えてご紹介します。

高柳製茶とは

高柳製茶は、明治35年創業の老舗製茶会社で、静岡県牧之原市に本社を構えています。地元・牧之原で生産されるお茶の製造と販売を手がけており、現在は「牧之原本店」と「イオン焼津店」の2店舗を展開しています。現代表の高柳敬将さんは、創業家の4代目にあたります。


高柳製茶のお茶の紹介

静岡県牧之原の豊かな自然に囲まれた「高柳製茶」は、高品質な日本茶の製造に加え、お茶を使ったスイーツやお菓子の開発にも力を注いでいます。急須で淹れるリーフ茶をはじめ、ボトルティーやティーバッグ、お茶摘みクッキー、シュークリーム、アイスクリーム、生クリーム入りの大福など、多彩なオリジナル商品を展開しています。

今回は、その中からいくつかの人気商品をご紹介します。

高柳製茶
本店では、特製の緑茶ソフトクリームを販売。なかでも、金沢産の金箔を贅沢にあしらった緑茶ソフトは、見た目のインパクトとお茶の香りが楽しめる逸品です。

新茶 深蒸し茶 特上さえみどり

牧之原台地にある太陽の恵みをたっぷり受ける茶園で、一年かけて丁寧に育成した「特上さえみどり」は、旨味とコクが際立つまろやかな深蒸し茶です。淹れ方も簡単で、誰でも簡単に美しい深緑色のお茶を淹れることができることから、おもてなしにも最適。渋味が少ないため、子どもにも飲みやすく、甘味と一緒に楽しむとさらに美味しさが引き立ちます。

お茶つぶリーフクッキー

「子どもにも親しまれるお茶菓子を」との想いから生まれた「お茶つぶリーフクッキー」。開発当初は丸型の試作品からスタートしましたが、「くちどけが良く、お茶の風味が口の中に広がって美味しい」と話題になり、商品化されました。

現在では年間70万枚(約7トン)を売り上げる人気商品となっています。


商品化にあたり、高柳製茶は「お茶の風味を最も楽しめること」を最優先のテーマに掲げ、更なる品質改善に取り組みました。試行錯誤の末、お茶つぶリーフクッキーは牧之原茶の風味を存分に引き出し、心地よい歯ざわりとくちどけを実現する固さで作られています。

お茶摘みダックワーズ

太陽の恵みをたっぷり受けた牧之原の新茶をふんだんに練り込んだ「お茶摘みダックワーズ」は、100%国産米粉を使用。外はサクッと、中はもっちりふんわり。お茶の豊かな香りと上品な甘さが口いっぱいに広がります。


抹茶味、緑茶味、紅茶味の3種類があり、常温でも美味しく食べられるため、お土産や贈り物にもぴったりです。

急須で淹れるお茶よりも美味しい!? 牧之原茶プレミアムペットボトル

「牧之原の雫茶」プレミアムペットボトルには、一番茶のかぶせ茶を使用。遮光栽培によりタンニンを抑え、旨味成分テアニンを引き出した上質な茶葉を使用しています。


抽出温度や時間にまで徹底的にこだわったこのお茶は、高柳製茶の技術の粋を集めた逸品。都内の一流ホテルでも提供されており、社長自身も「急須で淹れるお茶より美味しい」と語る自信作です。

高級ボトリングティー~牧之原の雫茶~

急須を使わず、誰でも最高級の味わいが楽しめることを目指して開発されたボトルティー「牧之原の雫茶」。濃厚な旨味と甘味が凝縮されたこの一品は、桐箱入りの高級仕様で、贈答品や慶事の贈り物にも最適です。

(※高級ボトルティーに注目した記事はこちら)

インタビュー:静岡茶の価値を広める挑戦。高柳製茶の市場開拓とPR戦略

高柳製茶代表取締役の高柳敬将さんにお話を伺いました。


厳しい現実に、諦めない現場。高柳製茶の営業とPRの最前線

–高柳製茶について教えてください。

高柳製茶は、「お茶を未来に繋げていくこと」を理念に掲げています。現在、お茶業界全体が価格の低迷や燃料費の高騰といった課題に直面しています。

たとえば、お茶を蒸すためのスチームオーブンや、収穫機に使うガソリン代、輸送費、保管用の冷蔵庫の電気代、さらには包装資材のコストなど、あらゆる経費が上昇しています。反対に、削減できる費用はほとんどないのが現状です。

そうした厳しい状況の中でも、私たちは牧之原でお茶を育て、届けてくれる茶農家の皆さんを支え続けたいと考えています。

そのためには、お茶の普及と市場の拡大は不可欠です。そこで私たちは、高品質なお茶作りに加え、お茶を使った新商品の開発にも取り組んでいます。また、静岡・牧之原という有名な茶産地で生まれたお茶を県外に広めるため、各地のお茶専門店や小売店、量販店へのPR活動を積極的に展開しています。

さらに、「フードテックス」などの展示会にも参加し、バイヤーの方々に直接アプローチしています。こうした場を通じて、県外のお茶専門店で高柳製茶のお茶を取り扱っていただけるよう交渉を続けています。

▲高柳製茶では、売り場に合わせたポップの作成など、丁寧な陳列にも力を入れています。

品質には自信あり、でも売れない? 静岡茶・県外営業で見えた市場の壁

–静岡県牧之原産のお茶を県外に売り込むことについて、どのような手応えを感じていますか?

高柳製茶として、胸を張って提供できる品質の静岡茶を持参し、展示会に参加しています。しかし正直なところ、すでに確立された他社の市場を切り崩すのは容易ではないと感じています。

県外の多くのお茶専門店や小売店では、すでに仕入れ先が決まっており、それを変更するのは非常に稀なことです。

仮に、複数の生産者から仕入れている場合には、一部の見直しも考えられるかもしれませんが、たいていの場合は全体の取引が固定化されており、しかも長年の信頼関係が築かれています。こうした背景には、お茶が伝統的な嗜好品であることも関係しているのではないでしょうか。

仮に私たちが新たに取引先に加わったとしても、最初から納品できる量には上限があります。また、小売店が新たなお茶を取り扱っても売上が伸びなければ、商品点数が増えるだけで終わってしまいます。それでは意味がありません。

現状、リーフ茶の供給量は十分で、取引先の数も足りています。しかし、お茶全体の売上は伸び悩んでおり、わずかながら減少傾向も見られます。市場はすでに飽和状態にあり、競争が激化しているのが現実です。

競争より共創を。お茶業界に未来を描く高柳製茶の視点

–多くのお茶専門店や小売店は、長年取引のある仕入れ先がすでに決まっており、新規参入の余地はほとんどないということですね。そして、市場そのものも縮小傾向にある、と

私たちも、牧之原のお茶を一生懸命PRしており、その品質には自信を持っています。美味しいお茶を作るのは当然として、製造には万全の衛生管理体制を敷いており、各種の認証や資格も取得しています。オリンピックを契機にHACCP(ハサップ)の運用も導入しました。

すべては、お客様に安心して高柳製茶のお茶を手に取っていただきたい、という想いからです。


▲高柳製茶の工場。ここで製茶からお茶菓子の製造までが行われています。

もしかすると、バイヤーの方々の中には、長年の付き合いのある契約先よりも、当社の牧之原茶を仕入れてみたいと考えてくださっている方もいらっしゃるかもしれません。

とはいえ、高柳製茶の理念は「お茶を未来につなげていくこと」です。他社様も、お茶市場を拡大したいという思いは同じはずです。だからこそ、私たちはそうした考えを持つ企業様を「同志」だと考えています。

私たちは、同志からシェアを奪おうとは思っていませんし、無理な値下げ競争のような、お茶業界全体にとってマイナスとなる行動も望んでいません。

大切なのは、品質の良いお茶を適正な価格でお届けする方法を追求することだと思っています。

リーフ茶だけじゃない。お茶の未来を拓くスイーツとボトルティー戦略の舞台裏

–たしかに、品質の良いお茶を適正な価格で提供することは非常に大切だと思います。そうなると、マーケティングの視点も重要になってきますね。

お茶専門店や小売店も、売上を伸ばすためにさまざまな工夫を凝らして努力されています。ただし、売上の構成比を見ると、リーフ茶以外の製品が増えてきている傾向があります。たとえば、ティーバッグやパウダー茶、お茶スイーツ、さらにはお茶に合うお菓子などです。

また、店頭での陳列スペースの広さと売上が必ずしも比例しないことも珍しくありません。

こうした市場の変化を受けて、私たちはお茶の魅力をより多くの人に伝えるため、スイーツやドリンクなど、新しい切り口の商品開発に取り組んでいます。その中でも、いくつかの製品は非常に高い評価をいただいています。


なかでも特に注目を集めているのが、「牧之原の雫茶 プレミアムペットボトル」です。この製品には、高柳製茶が誇る上質な茶葉を使用し、製法にも徹底してこだわりました。味には絶対の自信があり、実際にバイヤーの方々にもご試飲いただいた際、その品質の高さに驚かれることが多いです。


▲スパークリングティーや高級ボトルティーなどの開発を通じて、高柳製茶はさまざまな賞を受賞しています。

個人的な意見ですが、私は急須で淹れるお茶よりもおいしいと感じているほどです。私たちの理念に共感してくださる商社様をはじめ、高級ホテルやレストランでも採用されています。静岡空港や羽田空港、東京の有名ホテルなどにも商品を置いていただいています。

富士山静岡空港で販売されている様子

「お茶粒クッキー」も非常に好評で、年間で約70万枚(7トン)を売り上げています。今後も、新商品を「お茶への入り口」として活用し、多彩なバリエーションを展開していく計画です。


「飲む」だけでは伝えきれない。海外展開の現場から見えた「体験」の可能性

–日本茶の海外輸出が伸びているという報道を耳にしますが、高柳さんはその点についてどう感じていますか?

日本茶に対する関心が海外で高まっているのは確かです。当社ではポーランドに社員がいるのですが、大使館などで開催する「お茶の淹れ方教室」には、毎回50人ほどの参加者が集まります。参加者の年齢層も幅広く、老若男女問わず日本茶に興味を持ってくださっています。

(※釜炒り茶柴本に取材した際に、ポーランドへお茶を輸出しているという話がありました。こうした背景からも、ポーランドにおける日本茶の需要は確かなものだと感じています。)

実は、これまで県外での展示会では、急須でお茶を淹れて試飲していただくような体験はあまり行ってきませんでした。というのも、それだけではバイヤーの関心を十分に惹きつけることができなかったのです。

しかし、ポーランドで「日本から来たこと」や「お茶の製造方法」について丁寧に説明すると、皆さんとても熱心に耳を傾けてくれます。試飲会も非常に好評で、改めて「体験」が海外展開の鍵になると実感しました。

また、海外輸出を進める中で、有機栽培への転換も検討しています。ただし、高価格帯の有機茶にどの程度の需要があるのかは、まだ明確ではありません。現在の日本茶のニーズが、そのまま有機茶に置き換わるとは限らないため、より詳細な市場データが必要です。

さらに、海外展開には関税の問題があり、価格が上昇することも避けられません。その他にも、多くの課題が山積しています。

一方で、日本茶を求めて日本を訪れる海外の方がいるのも事実です。そういった方々は、お茶そのものだけでなく、「物語」や「背景」といったストーリーに魅力を感じているようです。だからこそ、体験やストーリーを通じてお茶の魅力を伝え、販売や購入へとつなげていく——それが、日本茶を未来へつなぐ上での大切な要素だと感じています。

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高柳製茶の情報

高柳製茶・牧之原本店

住所 〒421-0406 静岡県牧之原市勝田2310-4
ホームページ https://www.makinohara-cha.com/
電話番号 0548-27-2325
電子マネー・カード決済 電子マネー・カード決済対応
営業時間 9:00~17:00(平日)
9:00~17:00(土日・祝)
定休日 年中無休
駐車場 店舗前と裏で14台
アクセス 相良牧之原IC
北に車にて2キロメートル

 

高柳製茶・焼津イオン店

住所 〒425-0045静岡県焼津市祢宜島555
ホームページ https://www.makinohara-cha.com/
電話番号 054-656-2413
電子マネー・カード決済 電子マネー・カード決済対応
営業時間 9:00~19:00(平日)
9:00~19:00(土日・祝)
定休日 年中無休
駐車場 あり
アクセス 東名高速道路 焼津IC 上り 出口より約16分

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴  「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~24年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

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