森のお茶を世界へ──おさだ苑が描く、次世代に継ぐ日本茶の未来【静岡県・周智郡森町】

静岡県西部の周智郡森町は、小高い山々に囲まれ、中央を清流・太田川が流れる、豊かな自然に恵まれた地域です。この「遠州森町」で生産されるお茶は「森のお茶」として親しまれており、深蒸し茶のようなコク、山のお茶ならではの爽やかな香り、美しい水色が魅力です。
今回の取材では、「森のお茶」を中心に、自園自製の抹茶「野乃」や、有機発酵茶「山吹撫子」、さらにお茶の海外輸出など、多様なかたちでお茶の普及に取り組む「おさだ製茶」の直営店「おさだ苑」を紹介します。
この記事では、「おさだ苑」が提供するお茶の魅力や、森町のお茶を世界へ届けるための取り組みについて、おさだ製茶代表取締役・長田夏海さんのインタビューを交えてお伝えします。
目次
おさだ苑とは
おさだ苑は、静岡県遠州森町にあるお茶専門店です。運営しているのは、1948年創業の老舗製茶問屋「おさだ製茶」。現在、3代目となる長田夏海さんが代表取締役を務めています。
▲玄関前には、和の趣を感じさせる休憩所があり、遠州森の石松をモチーフにしたキャラクター「いし松くん」がお出迎えしてくれます。
店内は吹き抜け天井で、開放感あふれるつくりとなっています。並べられているのは、おさだ製茶自慢の「森のお茶」の数々。その品質の高さは、数々の受賞歴が物語っています。
なかでも、世界緑茶コンテストで金賞を受賞した有機黒麹発酵茶「山吹撫子」は、おさだ苑の看板商品のひとつ。さらに、お茶を使ったお菓子や陶器、小物類なども豊富に取り揃えられています。
おさだ苑では、来店時にお茶とお菓子のサービスが提供されます。
お茶に限らず、飲み物は飲み口や器によって、味や香りに違いが生まれます。そのため、「お茶を最適なかたちで味わっていただきたい」という想いから、通常は陶器の器でお茶を提供しています。(※感染対策や大人数の場合など、やむを得ずプラスチック製の器で提供することもあります)
おさだ苑のお茶とカフェメニューの紹介
おさだ苑では、地元・森町のお茶はもちろん、お茶を気軽に楽しめる多彩なカフェメニューや、お茶を知る入口になるような魅力的な商品が豊富に取り揃えられています。
店内の一角にはテーブル席が設けられ、イートインスペースとして利用することもできます。
また敷地内にはお洒落でシックな佇まいのカフェ「OSADA TEA CAFÉ」も併設されています。(新茶の季節のみ期間限定での営業になります)
ここでは、おさだ苑の魅力あふれるカフェメニューの一部をご紹介します(※メニュー内容は季節によって変更される場合があります)。
抹茶セット
おさだ苑の抹茶「野乃」は、自園の碾茶(てんちゃ)茶園で育てた茶葉を、店内の石臼で毎日挽いて作っています。鮮度が高い抹茶ならではの、鮮やかな緑が美しく、飲みやすい味わいが特徴です。
▲森町の奥に位置する「問詰(といつめ)」にあるおさだ製茶の碾茶茶園の写真も紹介されていました。
森の抹茶ソフトクリーム(小豆トッピング)
濃厚な抹茶の風味が際立つ特製抹茶シロップをたっぷりかけたソフトクリーム。お好みで京あずきをトッピングできます。
▲おさだ苑の店内では石臼で挽いた新鮮な抹茶を使用しており、香りが良く色も鮮やかです。
野乃づくし
アイスクリームに抹茶ソースをかけて、より濃厚な抹茶の味わいを楽しめる「抹茶アフォガード」に、ホクホクに炊かれた小豆と、抹茶クリームが挟まった煎餅「森の抹茶クリームサンド」を添えた贅沢な一品。
さらに、上級煎茶ティーバッグ「森の恋人」も付いてきます。一般的な旅館やホテルに置かれているものとは一線を画す、本格的な味わいのお茶は、甘味との相性も抜群です。
抹茶レモンスカッシュ
爽やかなレモンの果実感と控えめな甘さ、そこに抹茶の風味が絶妙にマッチした1杯です。
▲鮮やかな抹茶の緑が、視覚からも食欲をそそります。
微生物を利用した発酵茶山吹撫子
「山吹撫子」はおさだ製茶の有機栽培茶を原料に、「微生物制御発酵法」を用いて生み出された黒麹発酵茶です。「微生物制御発酵法」とは簡潔に言うと、お茶に微生物を入れて発酵させる方法であり、静岡酵母の生みの親である河村傳兵衛氏によって開発されました。
河村氏は静岡の吟醸酒を国際的に高く評価されるように導いた功績を持っています。
▲すっきりとした香りとコクのある味わいの山吹撫子。リーフ茶やティーバッグ、ペットボトルでも販売されています。
有機認証を受けた清潔な自社工房で、特許取得済みの麹菌のみを使用し、有機栽培茶を発酵させています。この発酵により、新型ポリフェノール「テアデノールA」や「没食子酸」「クエン酸」など、健康をサポートする成分が豊富に含まれています。
インタビュー:森のお茶を世界へ──おさだ製茶が描く、次世代が憧れる日本茶の未来
おさだ苑の運営元である、おさだ製茶・代表取締役の長田夏海さんにお話を伺いました。
お茶スイーツ・抹茶・発酵茶、そしてリーフ茶へと橋渡し。お茶の入口をつくる「おさだ製茶」の提案力
–おさだ製茶について教えてください。
おさだ製茶は、1948年に創業した静岡県周智郡森町の製茶問屋です。安心・安全はもちろんのこと、お茶の魅力を伝えるために、オリジナリティあふれる商品を数多く開発してきました。
地元・森町の「森のお茶」をはじめ、自社茶園で育てた抹茶「野乃」、有機栽培茶や発酵茶、さらにはお茶の味わいを引き立てるお茶菓子など、常に時代のニーズに応える新しいお茶の形を追求し、日々お茶づくりに取り組んでいます。
–たしかに、おさだ製茶が運営する「おさだ苑」では、ティーバッグやペットボトルなど、さまざまなスタイルでお茶を提供されていますね。一般的なお茶屋というと、リーフ茶を前面に押し出すイメージがあるので、あの雰囲気はとても印象的でした。
私たちとしては、やはり急須で淹れるリーフ茶を楽しんでいただきたいという想いがあります。ただ、現代では急須を持っていない方も多く、最初からリーフ茶をおすすめするのは少しハードルが高いのが現状です。
まずは、お茶に気軽に触れていただける「入口」を作ることが大切だと考えています。たとえば、カフェメニューで提供しているお茶スイーツやドリンクなど、親しみやすい形でお茶を体験していただく。
その次にティーバッグや粉末茶、そして最後にリーフ茶へとステップを踏みながら、お茶の魅力を伝えていきたいと考えています。
荒れる茶園、消える生産者──いまこそ求められる持続可能な日本茶ビジネス
–一般の人々に向けてお茶を広めるための導線を丁寧に設計されているのですね。
はい。やはり大切なのは、茶葉の需要をいかに高めていくか、そしてその結果として茶葉の価格を引き上げていくことだと考えています。そして、そこで得られた利益をきちんと生産者の皆さんに還元していくことこそが、私たちの大きな使命です。
この循環を保つことが、お茶産業全体の持続可能性にもつながっていきます。
もし茶葉の価格が下がり続ければ、当然ながら利益も減ってしまい、生産者の手元に届く金額も少なくなってしまいます。価格が、生産を続けるには厳しい水準にまで落ち込んでしまえば、やがて茶農家そのものが減少してしまうでしょう。
生産者が減れば、当然、茶葉の供給量も減ってしまいます。そうなれば、私たち製茶問屋が荒茶(※仕上げ加工前の茶葉)を買い取ろうとしても、手に入らなくなる可能性すら出てきます。
実際、森町に広がる茶園では、傾斜地の一部から放棄が始まっており、今も少しずつ荒廃が進んでいるのが現状です。
こうした流れに歯止めをかけるためにも、「私たちは茶農家さんがいてこそ成り立っている」という原点を常に心に留めながら、お茶をお客様に届けていくことが大切だと感じています。
そうした持続可能なお茶づくりのひとつの道として、私たちは比較的早い段階から有機栽培に注目してきました。自然環境に配慮したこの取り組みは、いまでは海外からも高く評価されており、新たな販路として輸出にもつながっています。
世界へ未来へ──OSADA TEA JAPAN、次世代が憧れる「茶業のカタチ」への挑戦
現在では、有機栽培茶は海外からの需要が高まりつつありますが、おさだ製茶では20年以上も前からその取り組みを始めてきました。舞台は、浜松市天竜区春野町砂川地区。標高300〜500メートルに位置する茶園で、地域の茶農家さんとともに有機栽培に取り組んできました。
そうして丹精込めて仕上げた有機煎茶をもって、現在は「OSADA TEA JAPAN」として海外市場の開拓に向けて動いています。
–20年以上も前から有機栽培にですか? 当時はまだ有機茶への関心も低かったのではないでしょうか。一体どのように進めていったのですか?
そうですね。まず最初に、静岡県北西部の中山間地帯にある茶園が、有機栽培に適しているかどうかの調査を行いました。この地域は傾斜地が多く、機械化による効率化は難しいのですが、そのぶん品質が良く、山間地ならではの爽やかな香りのお茶が育ちます。
調査の結果、自然環境として有機栽培に非常に適していることがわかり、10数名の茶農家さんに有機栽培への転換を提案しました。そこから試行錯誤を繰り返しながら基盤を築き、2002年には有機JAS認証を取得。
現在では、エコサートによる認証も取得し、アメリカ・カナダ・EUの有機認証と同等の基準であることが認められています。
▲おさだ苑店内にはお洒落な「茶香炉」も並んでいます。焚かれた茶香炉からはお茶の良い香りが漂っています。
–世界のお茶の需要に森町のお茶を繋げていくことを目標に掲げて動いているのですね。
おさだ製茶が目指すのは、地域と共に歩みながら未来を切り拓くお茶屋です。その延長線上に、「次世代がお茶づくりに参加したくなるような、魅力ある茶業界」があると信じています。
そのためにも、今後はより一層、品質の高い、付加価値のあるお茶づくりに挑戦していきたいですね!
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おさだ苑の情報・購入方法
住所 | 〒437-0215 静岡県周智郡森町森町森1522-1 |
ホームページ | https://www.osadaen-honten.com/ |
電話番号 | 0538-85-1500 |
電子マネー・カード決済 | 対応済み |
営業時間 | 8:30~18:00 |
定休日 | 年中無休※元旦のみ休業 |
駐車場 | あり |
アクセス | 新東名森掛川ICより車で5分 遠州森駅より徒歩10分 |
この記事を書いた人 | Norikazu Iwamoto |
経歴 | 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~24年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズは世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介されています。地元ラジオやメディアに出演経験あり。 |
英訳担当 | Calfo Joshua |
経歴 | イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。 |