森内茶農園の多品種栽培の秘密と手揉み技術を活かしたお茶作り【静岡県・本山茶】

OCHATIMES編集部
森内茶農園の多品種栽培の秘密と手揉み技術を活かしたお茶作り【静岡県・本山茶】

静岡県葵区内牧でお茶作りをしている「森内茶農園」は江戸時代より続く歴史ある本山茶農家です。大小様々な山に囲まれている内牧地区の特性を活かしたお茶の栽培や、手揉み技術を活かしたお茶の仕上げで高い評価を得ています。国内外から毎年200人以上のお茶の体験を求める観光客を受け入れており、お茶の魅力の発信にも精力的です。

この記事では、森内茶農園で体験できるお茶体験や、多品種の香味豊かなお茶作りについてなど、森内真澄さんのインタビューを交えてお伝えしていきます。

森内茶農園とは

森内茶農園とは静岡県葵区内牧にある江戸時代から続く本山茶農家。現在は9代目園主である森内吉男さんと森内真澄さんの夫婦二人で茶畑と茶工場を管理しています。

森内茶農園

森内茶農園の作るお茶は手揉み茶・手摘み茶・品種茶・半発酵茶・紅茶と多岐に渡ります。品質面でも高い評価を得ており全国茶品評会、世界緑茶コンテスト、国際銘茶品評会、全国手もみ茶品評会など様々な賞を受賞。2002年には皇室献上茶茶園の指定を受けています。

森内茶農園のお茶の紹介

森内茶農園では様々な品種のお茶を栽培・製造・販売しています。ここではその内の幾つかをご紹介します。

~ゆめするが~

静岡生まれの希少品種茶。飲んだ後に口の中広がる甘い余韻を楽しめます。あまり丁寧に淹れなくとも美味しく抽出されるので、気軽にお茶を楽しみたい方にはオススメです。

~香駿~、~SORA~

爽快感のあるハーブのような香り、フルーツのような香り、ミルクのような香りなど感じ方は人によって様々です。香りに特徴のあるお茶を楽しみたい方向けのお茶です。

~さえみどり~

玉露に使われることの多い品種のお茶で上品な旨味があります。普段から良質なお茶を嗜まれる方向けのお茶です。

~つゆひかり~

お茶を淹れた時に思わずハッとするような美しい色、まろやかな旨味と甘味のバランスの取れた味わいは万人受けすること間違いなし。夏につゆひかりを冷茶で出されたら、もうイチコロです。

~蒼風~

まるでジャスミンやフルーツを思わせるような華やかな香りが特徴的なお茶。抗酸化作用のあるケルセチンを多く含んでいます。ケルセチンには大手飲料メーカーも注目しておりケルセチンを含んだ飲料を特定保健用食品として発売されています。

~おくみどり~

淹れた時に濃い緑色が鮮やかなお茶。旨味と甘味のバランスが良く、スッキリとした爽やかな香りがします。少し低めの温度で淹れると、とろりとしたまろやかな口当たりになります。森内茶農園ではこのおくみどりを飲んだ外国人が「まるでシルクのようなお茶だ」と驚いていたそうです。
その他、発酵茶、紅茶などが販売されています。

森内茶農園の日本茶カフェ(予約制)

森内茶農園では築150年の農家兼自宅でお茶を楽しむことが出来る日本茶カフェ体験を受け付けています。(予約制)

茶農家で日本茶インストラクターでもある森内真澄さんの説明を受けながら、煎茶飲み比べ、発酵茶飲み比べが出来ます。夏には品評会入賞茶の氷出しや、茶殻を岩塩や茶の実油で食べてみたりと、お茶の生産家ならではの特別なお茶の体験ができます。

森内茶農園には、こうしたお茶体験を求めて外国人観光客を含め年間200人以上が訪れます(今回写真を提供していただいた石垣様代表の旅行会社ローカルトラベルパートナーズのサイクリングツアーのレポートはこちら)。

またyoutubeではカナダ人youtuberが撮影した森内茶農園のお茶体験の様子が公開されています。

外国の方のお茶体験をした時の感想はとてもユーモアに溢れています。なかには「エナジーを感じる」「命の水を飲んでいるようだ」「シルクのようなお茶だ」など、素敵な表現でお茶を語る人もいて、森内さんもつい嬉しくなって笑顔になるそうです。

森内茶農園ではこうしたお茶体験を街中で行うこともあります。過去にはレストランで「チーズとお茶のマリアージュ」(詳細を知りたい方は 茶と食を掬ぶ会で検索)というイベントを開催したこともあり、人気の余り当初の開催予定人数20人を30人に増席しました。

こうしたイベントは4月から6月の間のお茶の収穫期を以外の時期に行う予定だそうです。

インタビュー:多品種栽培の秘密と手揉み技術を活かしたお茶作り

森内茶農園の森内真澄さんにお話を伺いました。


多品種栽培の秘密

–森内茶農園のお茶作りについて教えてください。

森内茶農園は美和地区内牧にあり、周囲は大小様々な山に囲まれています。そうした環境は土地によって日当たりだけでなく温度湿度も大きな違いを生み出すのです。私達はその違いを把握し、土地毎に適した品種を分けて栽培しています。

–なるほど、簡単に言うと日光を多く必要とする品種は日当たりの良い土地に植えて、そうでない品種は日の当たりづらい土地に植えるということですね。

はい。例えば「つゆひかり」という品種は被覆栽培するので日光を多く必要としません。(被覆について詳しく知りたい方は薮崎園の記事を参照)

であれば「つゆひかり」は日照量の少ない斜面で栽培することで、その品種の特性を活かせるのです。もちろん大変なことに変わりはありませんけどね。

手揉み技術を活かしたお茶作り

これは森内茶農園が作りました「全国茶品評会 普通煎茶 4キロの部 入賞茶」になります。

–形状がとても綺麗に整っていて茶葉が艶やかですね。あまり市場には出回ってないように思います。

森内茶農園では手揉み技術を活かしてお茶を仕上げています。(手揉み技術に関しては山平園の記事を参照)

艶やかで香味豊かなお茶になるように、しっかりと揉み込んでいます。ちなみにこうしたお茶に仕上げる為に5時間くらいは揉み続ける必要があるんですよ。

–5時間!何故そんなに時間をかけるのですか!?

茶葉を揉むというのは簡単に言うと柔らかい状態を保ちながら水分のみを出していくという作業なのです。繊細な技術は勿論ですが、根気も必要になります。

例えばステーキを調理する時のことを思い返してみて下さい。外は強火でカリッと焼き上げ、中は柔らかくジューシィになるように焼きますよね。あれは旨味を残しつつ水分を飛ばしているのです。その作業に似ているかもしれませんね。

▲森内茶農園の手揉み技術をもって、どこまでも突き詰めていくと茶葉がこのように美しく伸びた形状になる。

–なんだかとてつもなく奥が深そうな作業ですね。

これが途方もなく奥が深いんですよ。茶葉の形状と内質のバランスの良い理想の一点を追求して揉み続けなければなりません。この道にはきっと終わりはないと思います。手揉みについてはYoutubeに動画も沢山載っていますよ。よろしければご覧になってみてください。

発酵茶作り

–森内茶農園では紅茶やウーロン茶などの発酵茶も作られているのですね。

森内茶農園では1999年から発酵茶も作っています。紅茶づくりは、戦後の日本がまだ紅茶の輸出国だった頃より、紅茶づくりの技術指導を務めていた方に来ていただき技術指導を受けました。

森内茶農園の作る農薬・除草剤・化学肥料不使用の紅茶は海外からも人気が高く、紅茶の本場イギリスへも輸出しています。世界的に有名なイギリスのRare tea company様でもお取扱いいただいているんですよ。

–烏龍茶はどのようにして作られているのですか?

烏龍茶づくりには台湾から輸入した台湾製を使用しています。殺青(さっせい~製茶の最初の段階で加熱して葉の酸化作用を抑える工程~)もその釜で行っています。

紅茶作りの技術指導を受けた数年後には、烏龍茶の本場台湾から烏龍茶づくりの講師に来ていただき技術指導を受けました。「本山釜炒り茶研究会」というグループのみんなで一生懸命学びました。味と香りのバランスの良い烏龍茶づくりを目指して、夫の森内吉男は文献も読み込んで勉強していましたね。

–お茶づくりの為に文献も読むのですね。

文献には大事なことが書いてありますよ。ただ、著者によっては内容に偏りがあったりもしますので、様々な文献を読んで色んな観点からの知識を仕入れる必要があります。

お茶の事をもっと知りたくなったのならば、茶業試験場という施設に行くのも良いかもしれません。研究発表会などがありますし無料のお茶の試飲やサンプルも貰えますよ。

自然仕立てのお茶の可能性

茶畑には大きく分けて2種類あります。一つは一般的に多く見られる茶畑でかまぼこのような丸い形に仕立てられています。畝(うね)仕立て園、もしくは弧状(こじょう)仕立て園と言われる茶畑です。

–よく見られる形ですね。この形には意味があるのですか?

丸い形状なので茶樹への日当たりが良いのです。収穫には機械を使用するので効率的に多くの量を収穫出来ます。

もう一つが茶樹を真上に向かって自由に伸び伸びと育てる自然仕立てと言われる形状の茶畑です。伸び放題に育てることで茶樹自身による遮光効果もあります。収穫は人手による手作業です。

熟練のお茶摘みさんが一つ一つ丁寧に摘んでいくため高品質なお茶を収穫出来ますが一日の収穫量は機械で摘むのとは比べ物にならないほど少量です。

–お茶の味に違いが出るのですか?

全く違いますよ。畝仕立ての茶畑から採れる茶の芽の数が200とすると、自然仕立ての茶畑から採れる茶の芽の数は80程度しかありません。その分栄養がその80の芽に集中するのです。だから自然仕立てのお茶には力強い旨味があります。こちらは森内茶農園の自然仕立て園のお茶です。どうぞ、飲んでみて下さい。

–これは凄いですね。日本茶カフェでも飲んだことのない美味しさかもしれません。

自然仕立ての手摘みのお茶は美味しいのですが、単価が高いので日本茶カフェではあまり出されないかもしないですね。

–会社でもこういうお茶を出せば、間違いなく仕事の能率はあがると思いますよ。

ええ、こういうリーフのお茶を出されれば、きっと変わるでしょうね(笑)

森内茶農園の情報・購入方法・ツアー情報

住所 〒421-2118 静岡県静岡市葵区内牧705
ホームページ

購入方法

ツアー情報

https://moriuchitea.wixsite.com/moriuchi-tea-farm
電話番号 054-296-0120
電子マネー・カード決済 農家で直接購入の場合は現金のみ
営業時間 問い合わせ
定休日 不定休
駐車場 あり
アクセス 新東名新静岡ICから車で約15分

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~23年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

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