品種茶の個性を活かす匠・森内茶農園のお茶が国境をこえて愛される理由【静岡県・本山茶】
静岡県葵区内牧に位置する森内茶農園は、江戸時代から300年の歴史をもつ老舗茶農家。9代目園主の森内吉男さんと妻の真澄さんが、茶畑と茶工場を管理しています。手がけるお茶は、手揉み茶や紅茶、発酵茶など多彩で、全国茶品評会や世界緑茶コンテストで数々の受賞歴を持つ名品ぞろい。その品質の高さは、皇室献上茶に指定された実績からも明らかです。
また、土地の特性を活かして14種類以上の品種茶を育て、製茶仕上げまで一貫して行うところも特筆すべき点。日本茶カフェ体験プログラムでは、茶畑の見学や築150年の古民家でのお茶飲み比べ体験が楽しめ、国内外の茶愛好家を魅了しています。
この記事では、森内茶農園が生み出す多彩なお茶とその背景にある匠の技術、そして国境を越えて愛されるお茶の魅力について、森内真澄さんのインタビューを交えてご紹介します。
目次
森内茶農園とは
森内茶農園は、静岡県葵区内牧に位置する歴史ある茶農家です。江戸時代から約300年の伝統を受け継ぎ、現在の園主である9代目の森内吉男さんが、妻の森内真澄さんと共に茶畑と茶工場を管理しています。
▲環境への負荷を最小限に抑えながら、高品質なお茶を生産する茶農家として、エコファーマーの認定を受けています。
森内茶農園が手がけるお茶の種類は、手揉み茶、手摘み茶、品種茶、発酵茶、紅茶と多岐にわたります。そのどれもが高い品質を誇り、全国茶品評会、世界緑茶コンテスト、国際銘茶品評会、全国手揉み茶品評会など、数々の賞を受賞しています。また、2002年には皇室献上茶茶園の指定を受けるという名誉も得ています。
紅茶の製造では、プレミアムティーコンテスト2021で入賞するなどの成果を上げ、2023年の全国茶品評会普通煎茶4キロの部では10年連続の入賞を達成。これにより、静岡を代表する茶生産者としての地位を確固たるものにしています。
森内茶農園のお茶の紹介
森内茶農園が位置する本山地域は、静岡市を流れる安倍川上流と藁科川上流に広がるエリアです。この地域は、江戸時代に徳川家康公の「御用茶」として献上された歴史を持つ、上級茶の産地として広く知られています。
森内茶農園では、14種類以上の品種茶を栽培しており、それぞれの特性を十分に理解した上で、手揉み茶、手摘み茶、品種茶、半発酵茶、紅茶など、多彩なお茶づくりを行っています。
今回は、その中からいくつかのお茶をご紹介します。森内茶農園ならではの豊富なラインナップの中から、あなたのお好みのお茶を見つけて、心豊かなお茶生活を楽しんでみてはいかがでしょうか。
▲自社で管理する茶畑の茶葉を、自社工場で製茶まで一貫して仕上げたお茶を販売していますので、安心してお楽しみいただけます。
ゆめするが
静岡生まれの希少な品種茶。飲んだ後に口の中に広がる甘い余韻が特徴です。特別に丁寧に淹れなくても美味しく抽出できるため、甘くて美味しいお茶を気軽に楽しみたい方におすすめです。
香駿
香りに特徴のあるお茶を楽しみたい方におすすめのお茶。爽やかなハーブを思わせる香りやフルーツのような甘い香り、さらにはミルクのようなまろやかな香りまで、多彩な香りを堪能できます。中でも森内茶農園が手がける香駿は、他とは一線を画す特別な味わいで評判です。
さえみどり
上品な旨味を持ち、玉露に使われることが多い品種のお茶です。普段から良質なお茶を好まれる方向けのお茶と言えます。
つゆひかり
お茶を淹れたとき、思わずハッとするような美しい色と、まろやかな旨味と甘味がバランスよく調和した味わいは、誰もが魅了されること間違いなし。森内さんによると、「夏に冷茶としてつゆひかりを出されたら、もうイチコロ!」だそうです。
蒼風
蒼風は、まるでジャスミンやフルーツを思わせる華やかな香りが特徴のお茶です。抗酸化作用を持つケルセチンを豊富に含んでおり、健康効果が期待されています。ケルセチンは、大手飲料メーカーにも注目されており、ケルセチンを含む飲料が特定保健用食品として販売されています。
おくみどり
淹れたときに鮮やかな濃い緑色が広がるお茶です。旨味と甘味のバランスが良く、スッキリとした爽やかな香りが特徴です。少し低めの温度で淹れると、とろりとしたまろやかな口当たりが楽しめます。森内茶農園では、このおくみどりを飲んだ外国人が「まるでシルクのようなお茶だ」と驚いたそうです。
森内茶農園の日本茶カフェ体験プログラム(完全予約制)
森内茶農園では、お茶ツーリズムにも力を入れており、日本茶ツアーやお茶体験など、特別なプログラムを提供しています。お茶好きな方や古民家好きな方まで、外国人観光客を含む年間200人以上の方々が訪れる人気のプログラムです。
(普段、園主夫妻は農作業に従事しているため、予約なしでの参加はできません。また、4月と5月は新茶製造の繁忙期で、園主夫妻は対応できませんが、熟知したガイドが皆様を案内します。)
日本茶カフェ体験プログラムでは、まず、日本茶インストラクターの資格を持つ森内真澄さんの説明を受けながら、茶畑の見学を行います。
見学後は、築150年の農家兼自宅で、森内茶農園のお茶を飲み比べることができます。煎茶、ほうじ茶、紅茶、玄米茶、烏龍茶など、さまざまなお茶を楽しむことができ、参加者から大変好評です。
夏には、品評会で入賞した特別な茶葉を氷で抽出した「氷出し茶」や、茶殻を岩塩や茶の実油で食べる体験や、時には市場に出回らない貴重な手摘み茶を味わうこともできます。
さらに、新茶の時期には、熟練のお茶摘みスタッフとともにお茶摘み体験も行われます。
(日本茶ツアーのレポートは静岡茶体験サイクリングツアーの記事を参照して下さい)
インタビュー:お茶の個性を活かす匠の技術が光る。国境を超えて愛される森内茶農園のお茶
森内茶農園の森内真澄さんにお話を伺いました。
地形と品種茶の組み合わせがもたらす森内茶農園の風味豊かなお茶の世界
–森内茶農園について教えていただけますか?
森内茶農園は、静岡市本山地域で江戸時代から300年以上にわたりお茶を作り続けている茶農家です。現在の園主、森内吉男さんは9代目を務めています。
当園では、14種類以上の品種茶(やぶきたをはじめ、香駿、ゆめするが、つゆひかりなど)を栽培しており、煎茶から発酵茶まで、多種多様なお茶づくりを行っています。
–どのようにしてそれだけ多くの品種茶を栽培しているのですか?
当園では、美和地区内牧の複雑な地形を活かし、品種ごとの特性に応じた管理方法を確立しています。森内茶農園の茶園は、大小さまざまな山に囲まれており、平地や急傾斜など、地形が複雑に入り組んだ地域に位置しています。そのため、場所によって日照、温度、湿度、土壌成分が異なります。
それぞれの場所の特性を把握し、その土地に適した品種茶を選ぶことで、多品種栽培を実現しています。
例えば、「つゆひかり」という品種は日光をあまり必要としないため、被覆栽培が行われることが多い品種です(被覆栽培について詳しく知りたい方は、薮崎園の記事をご参照ください)。であれば「つゆひかり」は日照量の少ない斜面で栽培することを選ぶことで、天然の被覆効果を得ることができます。こうした方法を取り入れつつ、肥料や剪定などの管理にも工夫を凝らしています。
–なるほど。地形が複雑に入り組んだ地域でも、それぞれの場所ごとの特性を把握することで、多品種栽培が可能になるという利点があるのですね。
その通りです。品種ごとの特性を活かして、煎茶、釜炒り茶、ウーロン茶、紅茶、半発酵茶など、多彩なお茶を自社工場で製造・販売しています。
継承された匠の技と機械の融合した技術でのお茶づくり
こちらは森内茶農園が作った「全国茶品評会 普通煎茶 4キロの部 入賞茶」です。
–見たところ、茶葉の形状が非常に美しく整っています。艶もありますね。
▲こうしたお茶に仕上げるためには、約5時間ほど揉み続ける必要があるそうです。
森内茶農園では、お茶作りのすべてを機械任せにすることなく、伝統的な手揉み茶の技術と、長年培った茶師の感覚を融合させたこだわりの製法を守っています。
–手もみ茶の技術ですか。とても奥が深そうな世界ですね。
途方もなく奥深い世界ですよ。茶葉の形状と内質のバランスが取れた理想の一点を追求しながら、揉み続けなければなりません。繊細な技術はもちろん、根気も必要です。
ここ、森内茶農園のある内牧は、昔から手揉み茶が盛んな地域です。優れた茶師たちが活躍してきた茶産地としても知られています。何世代にも渡って継承されてきた手揉み茶の技術は、日々研鑽されてきました。そして、その技術を機械化したのが現在のお茶工場です。
▲森内茶農園の手揉み技術をもって、どこまでも突き詰めていくと茶葉がこのように美しく伸びた形状になります。
手揉み茶についてさらに詳しく知りたい方は、YouTubeで動画もご覧いただけますので、ぜひチェックしてみてください。(手揉み技術に関しては山平園の記事を参照してください)
–なるほど。「茶師の手揉み茶技術と感覚」と「機械化された手揉み茶の技術」を融合させたお茶作りをされているのですね。
こうした手揉みの技術を活かした煎茶だけでなく、1999年からは紅茶や烏龍茶など、発酵茶も作っています。
紅茶の本場イギリスも認めた味!本場の技術を学び進化した森内茶農園の発酵茶
–煎茶だけでなく、紅茶などの発酵茶も作られているのですね。発酵茶づくりはどのようにして習得されたのでしょうか?
紅茶作りは、紅茶の製造に精通した方から技術指導を受けて学びました。あまり知られていないかもしれませんが、戦後の日本は紅茶の輸出国でもあったのです。その当時、紅茶製造の技術を指導していた方にお越しいただき、紅茶作りを教わりました。
現在、森内茶農園の紅茶は海外でも高く評価されており、紅茶の本場であるイギリスにも輸出されています。世界的に有名なイギリスの「Rare Tea Company」様でも取り扱っていただいています。
その数年後には、烏龍茶の本場である台湾から烏龍茶作りの専門家を招き、技術指導を受けました。味と香りのバランスが取れた烏龍茶作りを目指して、熱心に学びました。また、夫の森内吉男も多くの文献を読み、さまざまな視点から知識を深めるなどして勉強していました。
もしお茶についてさらに深く学びたいのであれば、茶業試験場などの専門機関を訪れるのも良いかもしれません。研究発表会なども開催されており、無料でお茶の試飲やサンプルをもらうことができますよ。
▲森内茶農園では、烏龍茶の製造に台湾から輸入した釜を使用しています。
森内茶農園が見据えるのは国境を越えて愛される日本茶の未来
茶畑には大きく分けて2種類あります。
1つは畝(うね)仕立て園(または弧状(こじょう)仕立て園とも呼ばれます)。これは一般的に多く見られる形状の茶畑で、「かまぼこ」のような丸い形に仕立てられています。この形状は、茶樹への日当たりが良好で、収穫には機械を使用するため、効率的に大量に収穫できます。
▲かまぼこ形状の畝(うね)仕立て園。
もう1つは自然仕立て園です。茶樹の形を整えず、真上に向かって自由に伸びるままに育てます。
収穫は手作業で行われ、熟練のお茶摘みさんが1つ1つ丁寧に摘み取ります。そのため、高品質なお茶が収穫できますが、一日の収穫量は機械摘みのものに比べて少量になります。
▲茶樹自身による被覆効果がある自然仕立て園。
— 畝(うね)仕立て園と自然仕立て園、味に違いはあるのでしょうか?
これが驚くほど違います。畝仕立ての茶畑から採れる茶の芽の数が100だとすると、自然仕立ての茶畑から採れる茶の芽は40程度しかありません。その分、栄養がその40の芽に集中するのです。 こちらは森内茶農園の自然仕立て園のお茶です。どうぞ、飲んでみてください。
–美味しいですね。この味は日本茶カフェでも飲んだことがないかもしれません。
こうした自然仕立ての手摘み茶は非常に美味しいですが、単価が高いため、日本茶カフェではあまり提供されていないかもしれません。
–私たちが知らないだけで、日本茶にはまだまだたくさんの魅力があるのですね。
お茶の魅力を伝える体験イベントは、街中でも行われています。「茶と食を掬(むす)ぶ会」というイベントも開催されており、お茶と食のペアリングを通じてその魅力が発信されていました。とても好評で、定員をオーバーする申し込みがありました。
また、森内茶農園で行われている日本茶体験ツアーも好評で、日本茶の魅力を実感する機会となっています。
–日本茶ツアーには外国の方も参加されていますよね。どのような反応をされますか?
外国の方々も大変喜んでくださいます。お茶を飲んだときの感想がとてもユーモアで、「エナジーを感じる」「命の水を飲んでいるようだ」「シルクのようなお茶だ」といった素敵な表現をする方もいます。またyoutubeではカナダ人youtuberが撮影した森内茶農園のお茶体験の様子が公開されています。
–とても素敵な表現ですね。日本人とは違う視点からの感想は、私たちにも日本茶の新たな魅力を気づかせてくれそうです。
はい。作り手としても、そのような素敵な感想をいただけるのはとても嬉しいことです。これからも日本茶の魅力を伝えるための取り組みを続けていきたいですね!
森内茶農園の情報・購入方法・ツアー情報
住所 | 〒421-2118 静岡県静岡市葵区内牧705 |
ホームページ
購入方法 ツアー情報 |
https://moriuchitea.wixsite.com/moriuchi-tea-farm |
電話番号 | 054-296-0120 |
電子マネー・カード決済 | 農家で直接購入の場合は現金のみ |
営業時間 | 問い合わせ |
定休日 | 不定休 |
駐車場 | あり |
アクセス | 新東名新静岡ICから車で約15分 |
この記事を書いた人 | Norikazu Iwamoto |
経歴 | 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~24年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。 |