静岡・森町いしだ茶屋発、甘くて美味しいお茶を全国へ。森のお茶ソフトが拓く新しいお茶時間【静岡県・周智郡森町】

OCHATIMES編集部
静岡・森町いしだ茶屋発、甘くて美味しいお茶を全国へ。森のお茶ソフトが拓く新しいお茶時間【静岡県・周智郡森町】

静岡県西部に位置する周智郡。その中に、三方を小高い山々に囲まれ、中央を清らかな太田川が流れる、自然豊かな町「遠州森町」があります。この地域で生産されるお茶は、甘みと渋みのバランスがよく、豊かな香りを持つ「森のお茶」として知られています。
今回は、そんな遠州森町にあるお茶屋「いしだ茶屋」を取材しました。いしだ茶屋では、誰が飲んでも「おいしい」と感じられるお茶づくりを目指すと同時に、若い世代に向けた新たな取り組みも展開。お茶の入口として開発した「森のお茶ソフトクリーム」や、静岡茶の飲み比べが楽しめる「金の茶箱」など、お茶をより身近に感じてもらうための工夫や情報発信に力を入れています。

この記事では、「いしだ茶屋」のお茶の魅力はもちろん、静岡茶全体の普及を目指して誕生した「金の茶箱」の開発経緯についてなど、代表取締役・石田宏之さんへのインタビューを交えながらご紹介します。

いしだ茶屋とは

いしだ茶屋は、静岡県周智郡森町に本店を構える老舗の製茶問屋です。創業から70年以上の歴史を持ち、現在は3代目の石田宏之さんが代表取締役を務めています。


▲道路を挟んで反対側には同じ森町のお茶屋「おさだ苑本店」があります。

いしだ茶屋は、静岡県内に合計4店舗を展開しており、森町本店のほか、浜松遠鉄百貨店、都田カインズホーム、湖西のスーパークックマートの3か所にテナントとして出店しています。

本店であるいしだ茶屋森町店は、大きく2つのエリアに分かれています。1つは、地元・森町産のお茶やお茶菓子を販売するスペース、もう1つはカフェスペースです。


店内は明るい色調で統一されており、地元の学校に通う子どもたちが描いた絵画が飾られていることもあります。こうした取り組みからも、いしだ茶屋が地域に根ざしたお茶屋として親しまれている様子がうかがえます。

▲いしだ茶屋のお茶の味を手軽に楽しめると人気のティーバッグ。パッケージが可愛らしく種類も豊富です。

いしだ茶屋の看板犬~柴犬の雌「琴」~

いしだ茶屋の看板犬である柴犬の「琴(こと)」は、かつてテレビ番組めざましテレビの人気コーナー「きょうのわんこ」に出演したことがあります。社長にとても懐いており、元気いっぱいにお店の看板犬として活躍しています。ただし、社長から他の犬の匂いがすると焼きもちを焼いて噛もうとする可愛らしい一面もあるそうです。

いしだ茶屋のお茶とカフェメニュー紹介

いしだ茶屋では、丹精込めて仕上げた森のお茶をはじめ、お茶の魅力を活かしたドリンクやスイーツがカフェメニューとして楽しめます。夏季にはかき氷、冬季にはぜんざいと、季節に合わせた甘味も充実しています。

ここでは、いしだ茶屋のお茶やカフェメニューを少しだけご紹介します。イートインスペースは店内と屋外の両方にあり、どちらでも自由に寛げます。一部メニューはテイクアウトにも対応しています。

いしだ茶屋特製の森のお茶ソフトクリーム

一見すると抹茶ソフトクリームのようですが、実は煎茶を使った「森のお茶ソフトクリーム」です。1番茶の粉末茶と上級細粉茶をバランスよく配合して作られており、爽やかな甘さの中にほんのりとお茶の渋味が感じられます。地元で親しまれている人気の定番メニューです。

焼きもっちり

「焼きもっちり」は、その名の通りもっちりとした餅生地に餡を包み、焼き上げたお茶菓子です。味は、緑茶餡・ほうじ茶餡・小豆餡の3種類。それぞれ、もっちりとした食感と上品な甘さが楽しめ、お茶との相性も抜群です。

温かい焼きもっちりと冷たい焼きもっちりの2つのタイプがあるので、季節に合わせた楽しみ方を選べます。


冷やしぜんざい

甘さ控えめのバニラアイスとあんこが絶妙にマッチした冷やしぜんざい。お茶請けスイーツとしておすすめです。

極み冷茶

いしだ茶屋で取り扱う最高級のお茶10g(100g2000円)を丁寧に時間をかけて水出し抽出した贅沢な冷茶です。澄んだ甘味と爽やかなお茶の風味が口いっぱいに広がります。お腹も心も満足させてくれる1杯です。

いしだ茶屋の茶氷~夏限定~

夏季限定で提供される「茶氷」には、ほうじ茶・緑茶・抹茶など様々な種類があります。中でもイチゴのかき氷は、氷の中にイチゴを閉じ込めて削り出すスペシャルな一品。毎年多くの人がこの冷たいかき氷とお茶を求めて訪れ、すぐに売り切れてしまうほどの人気です。


▲毎年夏の季節になると多くの方々が冷たいかき氷とお茶を楽しみに訪れており、すぐに売り切れてしまうそうです。

静五咲(しずいつつざき)

静岡の5つの茶産地である森、菊川、岡部、川根、清水のお茶をそれぞれティーバッグにして詰め合わせた飲み比べセット。産地ごとに異なる味わいを楽しめるため、お茶の個性を知るきっかけとしてもおすすめの1品です。


▲この「静五咲(しずいつつざき)」は静岡県立大学の岩崎先生の協力のもとに開発されました。

金の茶箱~世界緑茶コンテスト金賞受賞~

静岡県内10種類の茶産地から厳選したリーフ茶を、1煎ごとに小分けパックにした飲み比べセット。鮮度を保ちながら各地の味わいが楽しめ、ギフトにもおすすめです。

インタビュー:いしだ茶屋の「甘くて美味しいお茶」を届ける新たな挑戦。「森のお茶ソフト」と「金の茶箱」が描く未来図

いしだ茶屋の代表取締役の石田宏之さんにお話を伺いました。


戦後の自転車1台から始まった茶の道。工場直結の、いしだ茶屋本店から届ける森のお茶

–いしだ茶屋について教えてください。

「いしだ茶屋」は、静岡県周智郡森町に本店を構える製茶問屋で、昭和21年に創業しました。「いしだ茶屋」の歴史は、戦後間もない時期に祖父・石田庄平が始めたお茶の仲買業にさかのぼります。創業当初、庄平は自転車で取引先を回りながら、地道に仲買の仕事を地道に成り立たせていたそうです。

こうした努力の積み重ねにより、いしだ茶屋は創業から70年以上を経て、現在では静岡県内にテナント出店を含む4店舗を展開するまでになりました。

▲1998年に開設した「いしだ茶屋」本店

森町本店は、店舗と製茶工場が隣接しており、製造から販売まで一貫した体制のもと、いつでも最高の状態で「いしだ茶屋」のお茶を提供できる体制が整っています。

▲ 店内にはいしだ茶屋のお茶の品質の高さを保証する賞状が数多く飾られています。

また、カインズホーム浜松都田テクノ店や遠鉄百貨店本館地下1階店では、静岡県内外の多くの人々に向けて、「森のお茶」の魅力を積極的に発信しています。1部商品を除き、ネットショップからの注文にも対応しており、より多くのお客様にお茶を届けられるよう努めています。

自分が美味しいと思えるお茶を追い求めて。「甘味を軸にした一杯」を生む、いしだ茶屋の火入れ技術

–いしだ茶屋のお茶というのは、どのようなお茶なのでしょうか?

ひとことで言えば、「飲んだ人すべてに、甘くて美味しいね、と言ってもらえるお茶」です。お茶屋の数だけ香りや味わいがあり、人それぞれ味覚も違います。

そうした中で、いしだ茶屋のお茶とはどうあるべきかを考えたとき、私は「自分自身が美味しいと感じるお茶」を作ろうと決めました。その想いが、いしだ茶屋のお茶の味に表れていると思います。

–たしかに、いしだ茶屋のお茶は甘味が印象的です。こうした味は、どのように作られているのですか?

簡単に説明すると、私たち製茶問屋のお茶は主に3つの工程を経て作られます。

お茶の原料となる荒茶を茶農家から仕入れる「仕入れ」。
荒茶を火で熱することで甘味や香りを引き出す「火入れ」。
様々な産地のお茶を選別しブレンドすることで単一品種にはない奥行きある立体的な香味を生み出す「合組」。

この中でも、いしだ茶屋は特に「火入れ」の工程を重視しています。


「火入れ」とは、仕入れた荒茶を火で熱して、その茶葉が本来持つ甘味や香りを最大限に引き出す作業です。1℃温度が変わるだけでもお茶の味に影響が出てしまうため、「火入れ」には非常に繊細な感覚が要求されます。

常に味を確認しながら、香りをチェックしつつ、「甘くて美味しい」と感じてもらえる、お茶の味を目指して火入れを行っています。

–「甘くて美味しいお茶」。言葉にすると簡単ですが、実際に作るのは大変なのですね。

単に甘いだけではお客様に気に入っていただけません。豊かな香り、旨味、渋み、コク、そして余韻。そうした繊細で複雑な味わいの中心に、甘味がしっかりとあるのが「いしだ茶屋」のお茶なのです。

私自身、お茶づくりを始めて20年以上が経ちますが、未だに試行錯誤の連続です。だからこそ、お客様から「甘くて美味しかったよ」と笑顔で言っていただけると、本当に嬉しいですね。


▲製茶問屋は、それぞれの工程に独自のノウハウを持っており、それが各お茶屋の味の違いを生み出しています。

なぜ森のお茶屋が他産地の茶を?地元主義の壁を越えた「金の茶箱」

–「金の茶箱」というのは、産地ごとのお茶を詰め合わせた商品なのですね。お茶屋にこのような商品が並んでいる光景は、あまり見かけないように思います。

本来、お茶屋というのは自分たちの地元のお茶を推すものです。他の産地のお茶をPRするというのは、通常あまり行われません。実際、このように他産地のお茶を販売していることに対して、反感を抱く同業者の方もいらっしゃると思います。

そのため、産地別のお茶を詰め合わせた商品というのは、珍しいのかもしれません。


これが、たとえば東京や大阪のような全国から物が集まる大都市のお茶屋であれば、産地ごとの詰め合わせも自然な流れだと思います。しかし、私は森のお茶屋という看板を背負っています。ジレンマを感じていないわけではないのです。

–そうしたジレンマがある中で、なぜこの商品を作ろうと考えたのでしょうか?

1番の理由は、国内のお茶の需要をもっと増やしたいという想いからです。

静岡には、遠州森町だけでなく、「菊川」「清水」「岡部」「川根」「沼津」「天竜」「本山」「藤枝」「掛川」など、数多くの茶産地があり、それぞれが個性豊かなお茶が作られています。そうした地域ごとのお茶の味わいを多くの方に楽しんでいただきたい。

そして、それが静岡茶全体の普及にもつながっていってほしい。そんな想いから「金の茶箱」生まれました。結果的に、「金の茶箱」は世界緑茶コンテストで金賞を受賞し、いしだ茶屋の看板商品のひとつになりました。(笑)

「森のお茶ソフト」が切り拓いた、いしだ茶屋の未来。若者に届いた、お茶の新しいカタチ

今でこそ、いしだ茶屋はカフェ業も開いていますが、もともとは小売専門のお茶屋でした。お茶の魅力を広めるために何か新しいことに挑戦しようと、開店から1年後に「森のお茶のソフトクリーム」を導入したのです。

この森のお茶ソフトクリームが非常に好評だったことから、カフェメニューを本格的に展開するようになり、現在のスタイルに至っています。


こうした取り組みのおかげで、いしだ茶屋の店舗はSNSで話題になり、年々来店いただく若いお客様も増えています。「お茶は見せ方やアプローチ次第でまだまだ広まる余地がある」と手応えを得られました。

–カフェ業を始めたことで、いしだ茶屋に訪れる人々の層が広がったのですね。

はい。今後は特に若い世代に向けて、お茶の魅力を伝えていきたいと考えています。そのためには、具体的にどうすれば良いのか、日々試行錯誤を重ねていくしかありません。

お茶は高速道路のサービスエリアなどで給湯器から無料で提供されていることも多く、それが当たり前になっている面もあります。そうした中で、お茶の価値を再認識してもらうために、できることは何でも挑戦してみたいと思っています。

これからも、お茶屋としての対面での普及活動はもちろん、ウェブサイトやSNSを活用しながら、お茶の魅力を多角的に発信していきたいですね!

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いしだ茶屋の情報・購入方法

住所 〒437-0215 静岡県周智郡森町森1525-1
ホームページ http://www.ishida-chaya.com/
電話番号 0538-85-2446
電子マネー・カード決済 対応済み
営業時間 9時~17時30分
定休日 不定休
駐車場 あり
アクセス 新東名森掛川ICより車で5分

遠州森駅より徒歩10分

 

この記事を書いた人 Norikazu Iwamoto
経歴 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~24年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。

 

英訳担当 Calfo Joshua
経歴 イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。

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