さすき園は家族三世代で楽しめるお茶のテーマパーク【閉店】

静岡県島田市初倉は、旨味と鮮やかな色合いを備えたお茶の産地であり、そこで作られるお茶は「島田茶」と呼ばれています。今回取材させていただいたのは、そんな島田市にあるお茶屋「さすき園」。ここでは自慢のお茶を購入できるのはもちろんのこと、カフェやレストラン、アスレチック、足湯、酸素カプセル、さらにはドッグランまで併設されており、新しい形の「お茶のテーマパーク」として、多くの人々に愛されています。
この記事では、さすき園のお茶やカフェメニューの魅力、そして「さすきランド」を作った理由についてなど、代表取締役の大塚隆秀さんのインタビューを交えてお伝えしていきます。
さすき園とは
さすき園は、静岡県島田市坂本にあるお茶屋で、コンセプトは「家族三世代で楽しめる」ことです。運営しているのは、創業120年を超える老舗製茶会社、大塚製茶です。
2017年には「さすき園」がリニューアルされ、アスレチック遊具、ラジコンコーナー、足湯などを新たに併設し、「家族三世代が揃って楽しめるお茶屋~さすきランド~」として生まれ変わりました。
自慢のお茶を購入できるだけでなく、カフェやレストラン、アスレチック、足湯、ラジコンコーナー、酸素カプセル、ドッグランなどが完備されており、子どもからお年寄りまで幅広い世代が楽しむことができます。
さすき園のティーバッグ~神技~
さすき園の「ティーバッグ ~神技~」は、こんな想いから生まれました。「お茶を飲まなくなった人たちは、お茶が美味しくないから飲まなくなったのではなく、急須がないから飲まないだけ。そんな現状をなんとかしたい。」
この想いを込めて作られた「ティーバッグ ~神技~」は、まるで急須で淹れたかのような旨味と風味を味わえる、一味違ったティーバッグです。
さすき園と老舗銘菓店とのコラボお茶菓子
さすき園では、お茶の美味しさをより多くの人に知って欲しいと、お茶と地元の素材を活かした製品開発にも積極的に取り組んでいます。これまでに、老舗銘菓店「たこまん」「清水屋」「龍月堂」などと協力して、数多くの人気お茶菓子を作り上げています。(さすき園のお茶菓子の一部は、蓬莱橋897.4(やくなし)茶屋にもあります)
温もりが感じられる木製アスレチック
2017年、さすき園はアスレチック遊具、ラジコンコーナー、足湯などを併設し、「家族三世代が揃って楽しめるお茶屋」としてリニューアルしました。
地元の森林組合や地域コミュニティと協力して作り上げた木製アスレチックは、その温もりが感じられる外観で人気です。直接手を触れる部分も、夏は熱くならず、冬は冷えすぎず、金属とは異なり、機能的にも優れています。
展望台からは、真正面に富士山、右側に新幹線が見え、振り返ると富士山静岡空港から飛び立つ飛行機が見られます。
▲すべり台やボルダリングもあるアスレチックコーナーは、家族連れに人気です。
ラジコンコーナー
時速5kmで走るバギーカートを、実際のハンドルをイメージしたリモコンで操作して遊ぶことができます。自動車専門店「柴田自動車」が開発したバギーカートは、頑丈に設計されているため、多少衝突しても大丈夫。子どもから大人まで、幅広い年代の人々が楽しめます。
▲免許証代わりとなるさすき園のポイントカードの発行が必要です。
その他の施設「ミニ茶工場」や「ドッグラン」、土日限定の「足湯」、地元食材やお茶の料理を楽しめる「茶の庭レストラン」など、コンテンツが盛りだくさんです。
「さすきランド」は柵で囲まれ、防犯カメラも設置されているため、セキュリティ面も万全。安心して子どもたちを遊ばせてあげられます。
さすき園のカフェメニューの紹介
大井川下右岸流域の初倉地区に位置する「さすき園」の茶園は、適度な湿度を含んだ風と肥沃な土壌に恵まれ、お茶作りに最適な環境が整っています。土づくりから栽培、製造、仕上げ、販売に至るまで一貫して手掛けている「さすき園」のお茶は、「甘い、旨い、もう一杯飲みたくなるお茶」と評判です。
今回は、そんな「さすき園」のお茶を活かしたカフェメニューの一部をご紹介します。
クッキーシェイク~お茶味~
お土産としても大人気の「さすき園」のお茶クッキーが入った、飲みごたえ満点のシェイク。香ばしいお茶の風味が感じられ、リッチな味わいを楽しめます。
▲お茶クッキーは店頭で購入できます。
煎茶
スッキリとした甘さと、心地よい苦みや渋みが絡み合う繊細な味わいの煎茶。HOTとICEのいずれかお選びいただけます。
ジェラート~薫風とプレミアムイチゴ~
「さすき園」の一番人気を誇るジェラート。店頭のショーケースに並んだ18種類のジェラートの中からお好きな1種類を選ぶ「シングル」、2種類を盛り合わせる「ダブル」からお選びいただけます。お持ち帰り用カップもご用意しており、全国発送も承っているので、ギフトとしてもおすすめです。
大砂丘パフェ
静岡の老舗銘菓店「たこまん」の人気お茶菓子「生大砂丘」が盛り込まれたパフェ。ミルクソフトと一緒に生大砂丘を楽しめる、贅沢な1品です。
▲写真は煎茶とセットでの注文。さすき園の煎茶との相性も抜群です。
生大砂丘は店内のショーケースでも販売していますので、お気に入りの味をお土産としてお持ち帰りいただけます。
おしるこ~冬限定~
小豆を丁寧に焚き上げて作った手作りの「おしるこ」。絶妙な甘さの餡の中に、カリッとしたおこげのお餅がアクセントとなり、心温まる一杯です。
インタビュー:「モノ」よりも「ヒト」を見てきたからこそ決意できた「さすきランド」の建設
お茶のさすき園代表取締役の大塚隆秀さんにお話を伺いました。
「さすきランド」建設の背景
–なぜ「さすきランド」を作ろうと考えたのですか?
これまで私は全国各地のお茶屋さんを視察してきました。どのお茶屋さんも素晴らしく、感動しました。しかし、「さすき園で似たようなことをしても、お客様を呼べるだろうか」と疑問を持ちました。そこで、もう少し明確な動機が必要だと感じたのです。
そのため、さすき園に来られるお客様の層を分析したところ、実に88.4%が女性であるというデータが得られました。女性であれば、お子さんやお孫さんを連れてくる可能性が高いだろうと考え、「さすき園を子どもさんも一緒に楽しめる場所にしてみてはどうだろう」と思い、この「さすきランド」を建設することを決意しました。
日本の未来を担う子ども達を支援するお茶屋なんて素敵じゃないですか(笑)。
–確かに、安心して子どもを遊ばせられる場所は少ないですよね。親御さんにとっては大変助かりますね。
「さすき園」では、子どもたちが遊べる場所としてだけでなく、保育園や幼稚園の課外保育の一環としてもお手伝いしています。地元産のお茶を通して、教育や食育ができる場を提供していますし、お子さんが初めて一人で買い物をする経験をすることもできます。
こうした体験は、物の値段やおつり、消費税などを学ぶ貴重な社会勉強の機会になります。
▲ バスでの送迎も行っています。
–さすき園の経営がそのまま教育支援につながるのですね。
子どもたちが元気に遊ぶ姿を見ると、大人も元気をもらえます。ここにはお茶をはじめ、楽しく運動できる「さすきランド」や、疲労回復に効果があるとされる「酸素カプセル」もありますので、心身ともに元気になれる場所です。
▲酸素カプセルは一度に最大8名まで利用でき、1時間500円で利用可能です(事前予約制)。
こうして、楽しい時間や感動的な思い出を共有することで、絆も深まります。
お客様が「元気、健康、感動、つながりを大切にしているお茶屋を応援したい」と感じてくださり、さすき園のファンになってくださるのです。さすき園は、そんなファンの皆様の支援によって成り立っています。
さすき園にはお茶に精通したスタッフが揃っています。
さすき園では、私をはじめスタッフ全員が、物理学や科学的な視点からお茶の知識やプレゼンテーション技術を身につけています。そのため、お茶がなぜ美味しいのか、どのように作られているのか、またお茶屋でお茶を買う理由についても、納得いただけるように説明することができます。
–お茶の説明ができることにこだわる理由は何ですか?
お茶には、一般的なものから高級なものまで、さまざまな価格帯があります。その価格が異なる理由を明確に説明できなければ、自信を持ってお客様をお迎えすることはできないと思うのです。
ただし、お茶屋が「お茶」を売るために、単に「お茶」という商品・モノだけに注目しているだけでは、決して「お茶」は売れないと考えています。
「モノ」だけではなく「ヒト」を見る
どんなお茶でも自信をもって販売できるのであれば、それはそれで素晴らしいことです。しかし、「お茶」という「モノ」だけを見てしまうと、「深蒸し茶は」「山のお茶は」といった話に終始してしまいます。
けれど、それでは本当の意味で「お茶」を知ってもらうことはできません。「お茶を売るまでの入口は、実は非常に遠いところにある」ということを、私たちは理解しておく必要があります。
モノの品質は良くて当然。そのうえで大切なのは、「モノ」を見るのではなく「ヒト(人)」を見ることです。お茶が人々の生活にどのような役割を果たすのか、どのように暮らしを彩ってくれるのか。そこまでパッケージ化して提案することが求められています。
たとえば、「ギフトとしてのお茶」を探しているお客様には、缶入りのお茶が贈り物としてどのような印象を与えるか、また、熨斗(のし)をどのように書けばより丁寧な印象になるかなど、商品だけでなくその背景や価値を丁寧に説明し、納得していただくことが重要です。
こうした提供のあり方こそが、お茶専門店としての存在意義であり、価値なのだと思います。
–さすき園には、さまざまなものとお茶を組み合わせたセットが多く並んでいますね。これも「パッケージ化」を意識されているのでしょうか?
はい。たとえば、1万円相当のギフトに5,000円相当の返礼を用意する場合、お茶だけではなく、お菓子やかつお節などと組み合わせたセットをご提案しています。その方が、核家族化が進んだ現代の家庭事情にも合っているのではないでしょうか。
「セット販売によってお茶の存在感が薄れてしまうのでは?」という声もあるかもしれません。しかし私は、「お茶をどのようにアレンジして人々の生活に溶け込ませていくか」まで考えなければ、そもそも人々の選択肢の中に入ることすら難しいと考えています。
そうした意識のもと、お客様にお茶屋の門をくぐってもらい、「やっぱりお茶っていいね」と体感してもらうことが大切だと考えています。
多くの人々で賑わうさすき園の集客理論
さすき園の集客理論は、まず第一に「入りやすさ」を重視しています。次に「買いやすさ」を追求します。
一般的なお茶屋には「入りにくい雰囲気」があり、「一度入ると、お茶を買わなければならない」といったイメージがつきまといます。しかし、「さすき園」では、このお茶屋特有の壁を低くし、お茶専門店としての品格を保ちながら、集客のためにさまざまな工夫を凝らしています。
例えば、さすき園ではお茶だけでなく、お菓子や冷凍食品など、さまざまなカテゴリーの商品を取り揃えています。これにより、お茶を目的としないお客様にも、さまざまな理由で足を運んでもらうことができます。
▲店頭には和食をテーマにした企画が並び、日本茶の魅力を再発見したくなるような展示が行われています。
–お店の入口がとても広く設定されているのですね。
お茶好きなお客様だけをターゲットにするのは難しいですが、多くの集客ができれば、その中にもお茶目当てのお客様が来てくれます。結果として、多くの人々が日本茶に触れる機会を得ることができるのです。
▲さすき園では、お茶の無料試飲を行い、多い日には1日で30リットルを提供しています。
こうして集まったお客様と、まずは信頼関係を築くことから始めます。本当に売りたいお茶をお勧めするのは、その後です。さすき園では、お茶を販売する前にこれだけのステップを踏んでいます。
こうした積み重ねが、お客様に「こんなお茶屋があるんだ!」と感動を与え、その声がSNSで拡散され、さらに多くの人々を引き寄せます。そして、その様子を聞きつけた新聞、テレビ、ラジオなどのメディアが取材に訪れ、結果として宣伝広告費をかけずに、その連鎖が広まっていきます。
人を集めようとすると、どうしても費用がかかりますが、大切なのは、いかにして人が集まる仕組みを作るかです。
▲チョークアートで描かれたカフェメニューは、スタバやタリーズで見慣れており、人目を引きやすいです。
どんなに良いお茶が作れても子どもたちの笑顔には勝てない
夏の暑い時期になると、お茶の樹は糖とアミノ酸を合成して、甘くて美味しいお茶を作ります。厳密に言えば、この時期に合成されるのは糖とアミノ酸の前駆物質と呼ばれるものです。冬になると、この前駆物質が根の部分に移動します。
この活動は「養分転流」と呼ばれ、この時に糖の合成が行われます。冬が寒ければ寒いほど、茶の樹は身を守るために糖合成を活発に行い、甘いお茶ができるのです。つまり、美味しいお茶作りには一年を通じた寒暖差が必要で、静岡にはそれがある。だから、静岡はお茶作りに最適な場所なのです。
とはいえ、こういった小難しい話よりも、アスレチックで元気にはしゃぐ子どもたちの姿のほうが、お客様には喜ばれます(笑)。
–置かれている立場によって、人の琴線に触れる部分は違うのですね。
私たちはお茶の品質向上のために、物理学、科学、生物学などあらゆる視点から日々分析と研究を繰り返しています。お客様にもっと喜んでもらいたいという思いから、品種や栽培方法にこだわりを持って真摯にお茶作りに取り組んでいます。
しかし、どんなに努力しても、「子どもたちの眩しい笑顔」には勝てません。
さすき園には、たくさんの人々が訪れます。みんなが楽しみながらお茶に触れ、飲んで美味しいと笑顔になります。私は、それで十分だと思います。
さすき園の情報
ホームページ | https://sasuki.jp/ |
電話番号 | 0120-38-2107 |
この記事を書いた人 | Norikazu Iwamoto |
経歴 | 「静岡茶の情報を世界に届ける」を目的としたお茶メディアOCHATIMES(お茶タイムズ)を運営。2021~24年に静岡県山間100銘茶審査員を務める。静岡県副県知事と面会。お茶タイムズが世界お茶祭りHP、お茶のまち静岡市HP、静岡県立大学茶学総合研究センターHP、農林水産省HPで紹介される。地元ラジオやメディアに出演経験あり。 |
英訳担当 | Calfo Joshua |
経歴 | イギリス生まれ育ち、2016年から日本へ移住。静岡県にてアーボリカルチャーを勉強しながら林業や造園を務めています。カルフォフォレストリーを運営。日本の自然を楽しみながら仕事することが毎日の恵み。自然に重点を置く日本の文化に印象を受けて大事にしたいと思ってます。 |